Appearance
生成モデルの数理 6 —— フォッカー・プランク方程式と超対称量子力学
本章では、前章で触れた(フォッカー・プランク方程式)と(シュレーディンガー方程式)の対応関係をさらに深掘りします。確率分布の時間発展というマクロな現象が、いかにして量子力学における「超対称性」という深遠な代数構造に帰着するのか、そして計算不可能な演算子の指数関数を「鈴木・トロッター分解」と(フーリエ変換)を用いて経路積分の形(オンサーガー・マハルプ積分)へと見事に変形していく過程を追います。
1. フォッカー・プランク方程式からシュレーディンガー方程式へ
確率分布 の時間変化を記述する(フォッカー・プランク方程式)は、次のように書かれます。
この右辺の微分を展開して整理すると、次のようになります。
この方程式の構造は、量子力学における波動関数 の時間発展を記述する「シュレーディンガー方程式」と極めてよく似ています。
量子力学において、確率分布 は波動関数の振幅の二乗 として表されます。このアナロジーから、方程式を変換するために という変数変換を導入します。
この の空間微分を計算すると、1階微分は以下のようになります。
さらに2階微分 を計算し、元の方程式に代入して整理すると、見事に次の方程式が導かれます。
2. 超対称量子力学と演算子の代数
得られた方程式の右辺の演算子のウラには、「超対称量子力学」と呼ばれる代数構造が隠れています。次のような2つの演算子 と を定義します。
これらを掛け合わせた と を計算すると、それぞれ符号が反転した項が現れます。
驚くべきことに、変換後の(フォッカー・プランク方程式)は、この を用いて極めてキレイな形で書き直すことができます。
この系の「基本状態」は、 を満たす状態であり、これを解くと、定常状態の解である(ボルツマン分布)の平方根が得られます。
3. 演算子の非可換性と鈴木・トロッター分解
方程式の解は、形式的には と書けますが、演算子の中に含まれる微分 とポテンシャル は交換しません。 ここで、微小時間 の極限において演算子の指数関数を分割する「鈴木・トロッター分解」を用います。
この分解公式を用いると、我々の系の時間発展演算子は次のように空間の微分項とポテンシャル項に分離できます。
4. フーリエ変換と経路積分の導出
分離できたとはいえ、依然として微分の指数関数をどう計算するかが問題になります。ここで(フーリエ変換)のアイデアを用います。 空間の微分演算子は、フーリエ空間(波数 の空間)においては単なる掛け算 に変換されます。
遷移のプロセスを微小なステップに分け、デルタ関数の積分表現 を用いて「波数 の積分」を実行します。この際、指数部分の「平方完成」を行い、ガウス積分を繰り返すことで、遷移の速度 に関連する項が得られます。
こうして、微分演算子の指数関数という抽象的な概念から、見事に経路積分における運動エネルギー項が導出されました。量子力学の演算子代数と熱力学の(経路積分)が完全に結びついた、数理物理学の極致と言える展開です。