QI4U in Finland

フィンランド 開催レポート

QI4U in Finland 2026(2026年3月3日 - 3月5日)

フィンランドにて QI4U ワークショップを開催しました(3/3–3/5)

2026年3月3日から5日までの3日間、フィンランドのヘルシンキ大学にて、ゲート型量子コンピュータに関するワークショップを開催しました。

ワークショップの目的と意義

量子コンピュータと聞くと、量子力学や線形代数といった大学学部レベルの物理・数学的知識に加え、量子ゲートの振る舞いやアルゴリズムの理解、さらには実装のためのプログラミングなど、習得すべき内容が非常に多く、「身の回りの問題を気軽に解いてみる」といった段階に至るまでのハードルが高いのが現状です。

そこで本ワークショップでは、量子に関する予備知識がまったくない参加者であっても、身の回りのものや自信の専門分野に対して量子を応用できるように「問題提起」「定式化」「実装」「求解」までを3日間で一貫して行える構成としました。

また、理解を“受け身で得る”のではなく、“手を動かしながら獲得する”ことを重視した点も、本ワークショップの特徴です。スライドやデモを中心としたインタラクティブな講義形式にとどまらず、各セッションで参加者自身が考え、試行錯誤しながら進める演習を多く取り入れることで、概念理解と実践的なスキルの双方を同時に習得できるよう設計しました。

具体的には、数学的に従来のアルゴリズムに比べて大きな計算時間の加速が見込まれるFTQCアルゴリズムの一つである、グローバーのアルゴリズムに着目しました。グローバーのアルゴリズムで解くことができるグラフ彩色問題へと帰着される社会課題を各自で考案し、その定式化と求解までを行うことをゴールに設定しました。その過程で必要となるアルゴリズムの概要や量子ゲートの働きについては、数式を一切用いずに説明することを試みました。

自作教材

私たちが作成した、数式に頼らない教材の一例として、量子回路の説明パートを紹介します。量子回路は、量子ゲートと呼ばれる複数の要素から構成され、それぞれが量子状態の操作を担います。通常、これらは線形代数における行列の作用として記述されますが、本ワークショップでは数学を用いませんでした。その代わりに、circle notationと呼ばれる図式を用いて量子状態を表現しました。

具体的には、0と1の重ね合わせ状態を円と直線で描画し、量子ゲートを通過することで状態がどのように変化するかを視覚的に示します。参加者はこのダイアグラムを用いて量子ビットの状態遷移を追うことで、グローバーのアルゴリズムに対応する量子回路の直感的な理解を深められるようになっています。

心強い協力者の存在

また、本ワークショップをフィンランドで実施したことにも重要な意義があります。フィンランドには、量子コンピュータの実機開発を行うIQMをはじめとした関連企業や研究機関が集積しており、量子技術の実用化に向けたエコシステムが形成されています。

今回、IQMには本ワークショップのサポーターとしてご協力いただき、実機利用の機会もご提供いただきました。また、1日目には、IQMの共同創業者の一人であるJuha Vartiainenさんにご登壇いただき、量子コンピュータのユースケースを考える参加者に向けてメッセージをいただきました。

このような環境の中でワークショップを開催することで、参加者にとって最先端技術との距離を縮める機会となっただけでなく、現地の研究者・技術者に対しても、量子技術の裾野を広げるための教育・普及のあり方を示す一例になったと考えています。すなわち、本取り組みは単なる教育イベントにとどまらず、量子分野における人材育成とコミュニティ拡張の双方に貢献する試みであったといえます。

ワークショップの概要

1日目 量子計算の基礎

1日目の講義パートの様子
1日目の講義パートの様子

初日は、「量子コンピュータではどのようなことができるのか」「従来のコンピュータとは何が異なるのか」といった導入的な問いから始め、量子計算、量子ビット、量子ゲートについての基礎的な講義を行いました。これらの講義では、数学をいっさい使わず、図形を用いた直感的な説明を重視しました。

また、講義で学んだことを自分で実装してみるハンズオンも行い、参加者に、実際に自分で実装して活用できることを実感してもらいました。

2日目 量子アルゴリズム

2日目のグループワークの様子
2日目のグループワークの様子

2日目は、1日目で学んだ基礎をもとに、グローバーのアルゴリズムを中心として量子アルゴリズムについて解説を行いました。今回はグラフ彩色問題に着目し、このアルゴリズムを通して実際に問題を解くことができることを学びました。また、ハンズオンを通して、アルゴリズムの実行を実際に体験してもらいました。

最後に、参加者同士でグループに分かれ、自分たちがこの量子アルゴリズムを用いて解いてみたい問題を考えました。「量子コンピュータはどのような問題を得意とするのか」「従来のコンピュータではなく量子コンピュータで解くメリットは何か」を考え、試行錯誤しながら、問題提起、定式化、実装、求解の一通りの流れを実践しました。

3日目 成果発表会

最終日は、成果発表を行いました。各グループが扱った問題について、スライドを用いて発表してもらいました。3日間というタイトなスケジュールではありましたが、今回はコンピュータサイエンスに限らず、さまざまなバックグラウンドを持つ方が参加していたこともあり、それぞれのグループが発想力に富んだ個性豊かな問題とその解き方を披露してくれました。

グループの最終成果発表会の様子
グループの最終成果発表会の様子
グループの最終成果発表会の様子
グループの最終成果発表会の様子
グループの最終成果発表会の様子
グループの最終成果発表会の様子

それぞれのグループの最終成果発表会の様子
※スライドの内容は著作権保護のため塗りつぶしています。

参加者の声(一部抜粋)

  • I had not properly studied anything related to quantum computing before, so this workshop was really enlightening for me. It only lasted 3 days but I personally got a lot out of it and the organizers were professional and helpful. この経験はとても面白いです。ありがとうございました
  • I really enjoyed this workshop. I could gather knowledge of quantum computing, and the workshop made it more approachable. I really liked that we could give presentations. The staff were all helpful and I enjoyed my time here! :3
  • It was fun, I think it would have been nice to have one more day and maybe some more exercises. The presentations were challenging to do in a short time, but it was good practice. このワークショップを開催してくれて本当にありがとうございました!

サポーターの感想

鈴木

「全く数学を使わず、コーディングの知識もほとんど不要なワークショップを組み立てることは非常に難しかったのですが、グラフ問題をインタラクティブに定義できるツールを開発するなど、さまざまな工夫によってその困難に対処しました。実際にSTEM以外の方も自ら量子を活用したユースケースを考え、最終発表まで行うことができました。今後さまざまな分野との融合が進む量子技術を支えるワークショップの一つの型を作れたのではないかと思います。」

木全

「今回は、FTQC向けアルゴリズムのユースケース発掘という挑戦的なテーマでワークショップを企画しました。アイデア創出をFTQCアルゴリズムに限定することで、FTQCが実現した未来において何が可能になるのかを具体的に想像してもらうことを狙いました。同時に、現在利用可能な量子コンピュータ実機や古典シミュレータで「何ができて、何ができないのか」という限界についても体感的に理解してもらえる、これまでにあまり例のないワークショップになったと感じています。量子コンピュータに関するワークショップの一つの選択肢として、このような取り組みが今後さらに広がっていくことを期待しています。」

細川

「短い時間でそれぞれのグループがユニークなアイデアを出し、量子で解く意味やその問題の発展先などについても考えてくれました。ワークショップの意図がしっかりが伝わっていることが感じられて嬉しかったです。」

浦山

「人々が難しいと考え、なかなか手をつけ難い量子コンピュータを、全く数学を使わずに直感的に理解できるようにし、すべての人にとってのハードルを下げる、そんな量子の民主化とも言えるワークショップでした。今後の量子教育のさらなる発展に貢献できたことに大きな達成感と喜びを感じています。」

小野寺

「参加者の人たちは明るい方たちが多く、参加者同士であったり運営側のメンバーとも円滑にコミュニケーションできていたのが良かったです。」

参加者・運営メンバーの集合写真
参加者・運営メンバーの集合写真