QI4U in PNU 2026 の集合写真

韓国 開催レポート

QI4U in PNU 2026(2026年2月24日 - 2月26日)

目に見えない「量子」から始まる大きなつながり

量子力学誕生から100年。かつては理論物理学者の頭の中だけにあった量子が、いまや私たちの手のひらで動かせる時代になりました。
そんな節目の年に、量子の面白さと手軽さ、そこから広がる世界を韓国の人たちと一緒に体感したいという願いを込めて、量子アニーリングを活用した課題解決型ハッカソンイベントを釜山大学校で実施しました。イタリアに続き QI4U Expo シリーズの第二弾として開催され、私はイベント内容の立案、関係者との調整、当日の司会進行といった役割を担いました。

言語や文化の壁を超えたワークショップ運営は非常に挑戦的でした。
様々なトラブルに見舞われながらも、60名を超える参加者とともに非常にエキサイティングなイベントを作り上げることができたと思います。
当時の様子が伝わるよう意識して書いたので、ぜひご一読いただければと思います。

それでは行きましょう。

QI4U in PNU を釜山大学校 @ 韓国で開催しました(2/24 〜 2/26)

集合写真
集合写真

量子力学ってなんなの?という問いに答えを与えるのは難しいですが、「量子」をベースにした面白い取り組みはできないだろうか?と考えてみると、意外とアイデアは出てくるものです。なかでも量子アニーリング(Quantum Annealing; QA)は、ハッカソンの題材としてうってつけでした。QAは量子効果を用いて「組み合わせ最適化問題」を解くソルバーとして注目を集めており、しかもこの組み合わせ最適化問題は、私たちの身の回りのあらゆる場面に潜んでいるからです。

組み合わせ最適化問題を一言で説明すると、「いろいろな選択肢がある中で、一番良い選び方は何か?」という問いのことです。例えば、複数の配送先を最短で回るルートを決める問題や、限られた時間の中で効率よく予定を組むスケジューリング、あるいは限られた資源をどのように配分すれば最も効果的か、といった問題が挙げられます。

より身近な例としては、遠足のお菓子を300円以内に収めつつ、できるだけ自分の満足度が高くなるように選ぶ、というのも立派な組み合わせ最適化問題です。限られた予算の中で「どのお菓子を選ぶか」という組み合わせを考え、その中から最も良いものを見つける必要があります。さらに「絶対にポテチは入れたい」といったこだわりも出てきますよね。こうした条件(制約)が増えるほど、最適な組み合わせを見つけるのは一気に難しくなります。

そして量子アニーリングは、量子ならではの性質を使って、こうした問題の良い答えを探し出すことができます。目に見えない「量子」が、遠足のお菓子選びから街の物流まで、意外なほど身近な問題とつながっている—— この面白さを韓国の人たちと分かち合うことが、今回のイベントの出発点でした。
海と山に抱かれた韓国最大の港町・釜山の地で量子アニーリングを用いた課題解決型ハッカソンを開催したいと意気込み、参加者とともに現地ならではのアイデアやアプローチを形にすることを目指しました。

釜山大学校は韓国最初の国立大学という伝統を持ち、釜山地域でも随一の教育・研究設備が整っています。
参加者は釜山大学校の学生だけにとどまりませんでした。近隣の大学から足を運んでくれた方、量子技術に関心を持つ韓国企業の方、ソウル地域(ソウル大学校、高麗大学校、延世大学校、KAIST)から泊まり込みやオンラインで参加してくれた方、さらにはアメリカ在住の韓国人の方までオンラインで加わってくれました。
その顔ぶれも多岐にわたり、コンピューターサイエンスや物理学はもちろん、政治学、社会科学、経営学、哲学まで、文系・理系を問わず量子技術や日本人学生との交流に興味を持つ人が集まりました。

イベントのイントロダクション
イベントのイントロダクション

1日目:豪華な登壇者による量子アニーリングに関する講演・プレゼンテーション

西森さんによる講演
西森さんによる講演

イベント1日目には、西森秀稔 東京科学大学特任教授による招待講演として、門脇・西森論文(1998年に発表され、量子アニーリングという手法を世界で初めて提唱した論文。今回の講演者である西森さんご本人が著者の一人で、まさにこの分野の原点と言える研究です)を書いた当時の貴重なお話や量子力学・統計物理を交えた量子アニーリングの基礎、さらには、D-Waveマシンにまつわる研究の話を初学者向けにしていただきました。参加者の前提知識はバラバラでしたが、とても面白く力強い講演を熱心に聞いていました。
講演の質問時間には、僕が平易な英語しか喋れない司会であるという特権を活かして、「Do you like quantum mechanics?」や、「What is your hope or dream for quantum annealing?」といった、絶対にみんな聞けないであろう質問をしました。西森さんの回答は秘密にしておきます。

大関さんによるライブコーディング
大関さんによるライブコーディング

午後一番には、我らが大関さんによる「Quantum Annealing and its challenges」と題した講演をしていただき、これまで我々がどのような社会課題に対して量子アニーリングを用いてきたか、その具体的な題材とインパクトについて紹介しました。流通・交通制御といったテーマのみならず、果物の糖度推定やフォトモザイクアート、子育て支援マッチングやオープンキャンパスの人流予測を元にした看板設置場所の最適化といった、大関研究室ならではの応用テーマを韓国の人たちに知ってもらいました。
また、大関さんによるライブコーディングの披露を通じて、Pythonで簡単に量子アニーリングや最適化問題を扱えることを体験してもらいました。実はこの内容はいろいろあって直前に追加をお願いしたもので、即興で対応をしてもらったものでした。この時間を通して私たちは会場全体のレベル感や意欲を推し量ることができ、ワークショップの成功へと繋がった貴重な時間となりました。

その後は、韓国に拠点を構える LG CNS さんによる企業側のプレゼンテーション、Seon-Geun Jeong さんによる釜山の港の物流最適化に D-Wave マシンを応用して改善した話、延世大学の Gilhan Kim さんによる機械学習と量子アニーリングの話と、様々なテーマが続きました。西森さん、大関さんも交えて活発な議論が交わされ、とても盛り上がっていました。

実は、今回のイベントの様子について、参加していた学生記者の方が記事にまとめてくださいました(Japan Korea Daily の記事はこちら)。
記事では、講演の合間に大関さんのサプライズ誕生日会を開いたことなど、当日のちょっとした一幕も拾ってくれています。最も印象的だったこととして挙げられていたのが、まさにこの1日目の、教授と学生が分け隔てなく対等に語り合う雰囲気についてでした。「学者と学生が対等に議論を交わす光景は、韓国ではなかなか味わえないもので、学術コミュニティのもう一つのあり方を見た」と綴られていました。

この1日は座学がメインだったので、学びは多かったはずですが、参加者もきっと疲れているだろうなと感じていました。2日目以降の参加率はどのくらいになるかなぁと思案していましたが、なんと、予定していた参加者の100%が2日目以降のワークショップにも参加してくれたのです!

2日目のグループワーク

会場全体で活発な議論が行われていました
会場全体で活発な議論が行われていました

2日目はプレゼンテーションを行わず、丸一日をグループワークに充てました。1グループあたり韓国人4〜5人+日本人サポーター1人に分かれ、アイデア出しとプログラム開発に取り組んでもらいました。あわせて、プレゼン資料の提出やグループの方向性の舵取りを担うグループリーダーも、各班で決めてもらいました。これまでのQI4Uイベントではこうしたリーダー体制を取っていませんでしたが、今回は「リーダーを立てたほうが良さそうだ」とその場で思いつき、急遽実行した試みです。

言語の壁を超えてグループワークをしている
言語の壁を超えてグループワークをしている

ここで一つ裏話をします。実は、1日目にはQUBO(組み合わせ最適化問題を量子アニーリングで解ける形に書き換えた数式表現。これを作るのがプログラミングの肝になります)の具体的な作り方の講義を一切していませんでした。このことを先方は懸念しており、2日目のオープニングでフォローレクチャーをしてほしいと依頼されました。
しかし、僕は元々QUBOの包括的な話をするつもりがなかったことと、1日目の様子と2日目の参加率から見た参加者の積極性から、グループワーク活動の中でこの懸念(QUBOの How to)は吸収できると感じたため、結局フォローなしでワークショップを開始しました。
これは、大関研究室で学んできたマインドや、昨年度の QI4U in Taiwan に現地サポーターとして参加して肌で感じた現場の空気感、そしてこれまでの大学生活で培ってきた経験と直感をもとにした判断でした。
結果的にこの判断は正しかったと思うのですが、今回のやり方に再現性があるかと言われると少し微妙な気もしていて、今思えば危ない橋を渡っていたのかもしれません。

大関さんによるグループごとのメンタリング時間
大関さんによるグループごとのメンタリング時間

とはいえ、全てをグループ任せにしてしまうのも良くありません。そこで、これは本多さんの案でもあるのですが、フォローレクチャーの代わりに、午後の最初に大関さんによるグループ個別のメンタリングの時間を設けました。午前中はアイデア出しに専念し、大関さんのアドバイスを元に午後から具体的な形へ落とし込んでいく、という計画です。各グループの日本人サポーターに聞き込みを行い、午前の取り組みをまとめて大関さんに見てもらうための資料を作っていたのですが、驚くほどびっしりとアイデアが出てきていて、こんなに沢山のアイデアが出るとは予想していませんでした。嬉しい誤算というやつです。

グループごとに特色のあるアイデア
グループごとに特色のあるアイデア

午後からはグループの方向性を決めて、翌日の発表に間に合うよう具体的な定式化やシミュレーション、プログラムやモックアップのアプリ制作に取り組んでもらいました。実は僕自身はどのグループにも属しておらず、ときどき会場を見回って困っていそうなグループにアドバイスをしたり、日本人サポーターたちが困っていたら良さそうな着地点を提案するという役割をしていました。自分はプレイヤーになりきらず、全体のレベル感や雰囲気を俯瞰的に把握することで、イベント全体を動かしていました。

夜は日本人のサポーターみんなで楽しくホテルで開発(もくもく会)を行いました。サポーターは12月のハッカソンイベントに参加した先鋭たちなだけあって、みんなの開発モチベーションはすごく高かったです。
ただし、日本人サポーターの開発の成果がグループの成果そのものになるのはイベントの趣旨とは異なります。そのことを意識してもらい、あくまでグループとして一つの目標を達成するための開発を行ってもらいました。

3日目の発表会

スライドを使った成果発表
スライドを使った成果発表

3日目の午前中はグループごとにやり残したこと、発表準備などに取り組んでもらいました。
各自でお昼ご飯をしっかりと食べたあと、午後からはいよいよグループの成果発表が始まりました。

アプリを用いてデモンストレーションを披露しているチーム
アプリを用いてデモンストレーションを披露しているチーム

発表スライドとアプリのデモンストレーションを組み合わせた発表をするグループも多く、短い準備期間でこんな成果が生まれるのかと、感心しっぱなしでした。無料のクラウドサービスを用いて他の参加者がアプリにアクセス可能な仕組みを整えたり、最適化に必要なデータを発表中にアンケートで取得するという工夫もありました。
発表テーマも実に多彩でした。サムギョプサルの満足度を最大化するお肉・具材の組み合わせ最適化、大学の建物に特化した避難経路の最適化、釜山大学校ならではの事情を踏まえた時間割提案アプリなど、現地の暮らしや文化に根ざした「現地ならでは」のアイデアが次々と飛び出しました。

そのなかから、ここでは優勝チームの発表題材を一つだけ紹介します。このチームが着目したのは、「都市の道路をどのように整備すれば、大規模イベント時の群衆事故を防ぎやすくできるか」という問題です。政治学・外交学を大学で学んでいるチームメンバーもいたことから、社会問題への関心を出発点とした独特な着眼点で議論を進めていました。韓国では、特にソウルにおける人口集中が社会問題となっており、ハロウィンなどのイベント期間には大量の人が特定の地域に集まります。実際に2022年には、ソウルの梨泰院でハロウィンイベント中に群衆が密集し、狭い通路に人が両側から流れ込んだ結果、多くの命が失われる痛ましい群衆事故が発生しました。

このチームは、事故の背景にある「人の流れの集中」に注目しました。都市の道路網をグラフ構造として捉え、交差点を頂点、道路を辺としてモデル化します。そして、それぞれの道路に対して通行方向(どちら向きに人を流すか)を決める最適化問題として定式化しました。
つまり、既存の道路ネットワークを前提としたうえで、「どの道路を一方通行にするか」「どの方向に人の流れを誘導するか」を最適化することで、人の流れを分散させ、特定の道路への過剰集中を避けることを目指したのです。しかし、単純に最適化を行うと、「ある地点から別の地点へ到達できない」ような一方通行の配置が得られてしまう可能性があります。そこでこのチームは、すべての地点が互いに到達可能であることを制約として組み込みながら、人の流れが特定の道路に集中しないようなQUBOを設計しました。

今回の取り組みや発表成果を元にして、AQC(Adiabatic Quantum Computing:量子アニーリングや量子断熱計算をテーマとする国際会議。2026年は東京科学大学で開催されます)への招待が決まったグループもあります。
そして、このAQCでの発表を目指して、今もいくつかのグループが取り組みを続けてくれています。「2026年のAQCは東京か〜」と、どこか他人事のように眺めていた国際学会の舞台に、今回のハッカソンから生まれた取り組みが実を結び、参加者たち自身が立とうとしています。たった3日間のイベントが、こうして学術的な発表の場にまでつながっていくことは、イベント内容を企画した身として本当に嬉しく思います。

嬉しかったこと

今回のイベントは本当にいろいろと大変でしたが、得るものもとても多かったです。
特にイベント終了後、参加者のみんなから感謝の言葉をもらえたことが、何より嬉しかったです。釜山の人たちは、本当にみんな温かかったです。たとえば——

  • 多くの参加者から、「ありがとう、お疲れ様でした」と、いろいろな場面で声をかけてもらえた
  • 後日、「君のリーダーシップに感銘を受けた、ぜひいろいろ聞きたい」とメールをくれた人がいた
  • 参加者とすっかり仲良くなり、日本のアニメの話で盛り上がったり、釜山の美味しいお店に連れて行ってもらったりした

最後に

今回のイベントはみなさんのご協力があって成り立ちました。
まずは、このような形式のイベント開催を快く受け入れてくださり、釜山大学校の設備の整った素晴らしい会場を手配してくださった Won-Joo Hwang 教授に、深く感謝いたします。また、Hwang 研究室の皆さんには、当日に発生した様々な作業から、現地での的確なアドバイス、日本語・韓国語・英語が入り混じる中での即断即決の意思疎通まで、終始親身にサポートしていただきました。

東北大学・東京科学大学からは、合計11名の学生がこのイベントに現地で参加してくれました。ここで、その一人ひとりに感謝を伝えさせてください。
運営メンバーの中枢として、自分たちの強みを発揮しながら各々が活躍していた大関研究室の山田くん、沖澤くん、吉原くん、豊嶋くん。
急な誘いにもかかわらず参加を快諾し、現地では持ち前の能力を発揮しながら、僕がやりたいことの実現を支えてくれた東京科学大学 関澤研究室の Hyukjin(ジン)さん。
昨年12月に開催した東北大・科学大の同時開催イベント「QI4U CNG」からこの取り組みに興味を持ってくれ、初めての海外にもかかわらず卓越したコーディング・開発遂行能力を発揮してくれた東北大・科学大の学部生、榊原くん、寺尾くん、嶋﨑くん、竹村くん、栁澤くん。みんなが1つのチームとなって活躍したイベントだったと思います。

そして QI4U in PNU のリーダーを務めさせていただき、最後まで見守ってくださった大関さん、本多さん、本当にありがとうございました。

QI4U in PNU 2026 サポートメンバー集合写真
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