QI4U Expo in Singapore 2026 の集合写真

シンガポール 開催レポート

QI4U Expo in Singapore 2026(2026年8月25日 - 8月27日)

QI4U Expo in シンガポール

2026年8月25日~27日にかけてシンガポールにて量子コンピューティングに関するワークショップQuantum Infinity for You EXPO in Singaporeを開催しました!本レポートでは、ワークショップで行った内容やグループの発表などの会場の様子についてお伝えします!

ワークショップの開催に向けて

このワークショップは、2026年2月上旬のイタリアから始まったQI4U EXPOシリーズの8カ国目としてシンガポールで開催されました!

このワークショップは今までとは異なり量子コンピューターのゲート方式、アニーリング方式の両方を扱うワークショップとなりました。どちらも取り組む問題は最適化問題にフォーカスしましたが、それぞれ特徴を持ち合わせ、どこに向いているのか利用できるのかを理解してもらいました!

最終的にはシンガポールの身近な話題にどれだけ量子コンピューターが利用できるのかを知ってもらい、今後の日本とシンガポールのコラボレーションに繋げたいと思います!また、開催に先駆けてシンガポール経営大学(以下、SMU)のLau教授、Lau研究室のLeeさん、Monitさんにご協力いただきゲート方式の説明をしてもらいました。そして、今回の開催にはA*STAR - Agency for Science, Technology and Research (シンガポール科学技術研究庁)にご協力いただき、会場をお借りしました。

1日目午前:量子コンピューターに関する講演

1日目のはじめにLau先生がイベントの説明を行い、その後大関先生とLau先生がそれぞれの量子コンピューターでの研究について講演を行いました!

大関先生からは量子コンピューターの目的や有効性についての解説やこれまで取り組んできた量子アニーリングによる実課題への応用について紹介していただきました。今回の参加者の多くは量子コンピューターを知っている、ざっくりと理解している参加者が多かったですが、ここまで応用して利用できるのかと参加者が熱心に耳を傾ける様子が見られました。そして、最後には量子ソリューションを助けるための大関先生が開発したアプリについても紹介されました。(後述)

大関先生による講演の様子
大関先生による”Introduction to Quantum Computing and Our Challenges”の講演の様子

続いて、SMUのLau先生より、”Hybrid Quantum-Classical Approaches for Optimisation”と題して、講演を行ってもらいました。Lau先生の研究グループでは、主に量子コンピューターのゲート方式(以下、ゲート方式)を利用した最適化問題の研究が行われています。ゲート方式は未だ量子ビット数の少なさなどのハードウェア面での進歩が待たれていますが、今回の講演では量子と古典のハイブリッドにすることでの、どのように使うとうまく利用ができるか、最適化問題の制約をどのように扱うべきかなどについて講演していただきました。

Lau先生による講演の様子
Lau先生による”Hybrid Quantum-Classical Approaches for Optimisation”の講演の様子

講演中は、内容を熱心にメモを取る方や、講演後に実際に実務で利用することを考えて質問をしてくれる企業の方がいました。ただ、講演では、量子コンピューターでできるやすごさはわかっても、内容の難しさから実感がなかなか湧かない参加者もいたと思います。

そこで、昼食を挟み、午後からは参加者向けに大関研究室の学生とLau研究室のメンバーによるケーススタディの細かな説明とプログラムを動かしながらのハンズオンを行いました!

1日目午後:量子コンピューターのケーススタディとハンズオン

まず、はじめにLau研究室のLeeさん、Monitさんがゲート方式による最適化問題のケーススタディとしてQAOA, VQEといった量子アルゴリズムの解説をしていただきました!LeeさんにはVQEを利用する際にどのように最適化の制約を扱うべきかCustom Penalty VQEについて、MonitさんからはNewsvendor問題を題材に、不確実な需要下での期待値推定へのQAEの応用について、それぞれ説明とハンズオンをしていただきました!

Lau先生が講演してくれた内容を動かしながら参加者も理解することができたと思います!

Leeさんによるケーススタディとハンズオンの様子
Leeさんによる”Solving Constrained Optimisation with Custom Penalty VQE”の様子

そして、次に量子アニーリングによる組合せ最適化問題の応用の仕方について、大関研究室の武藤さん、奥山さん、藤原さんにそれぞれ説明とハンズオンを担当してもらいました!

武藤さんからは、量子アニーリングの基底状態の求め方の流れや実際に利用する際にどのようにQUBO形式※を作るべきかについて数分割法をもとに解説してもらいました。大関先生の講演をより理解でき、量子アニーリングの参加者の理解がより進み、参加者が前のめりになって聞いていました。

武藤さんの発表スライドの一部
武藤さんの”Applications of Quantum Annealing and How to Formulate QUBO Problems”の発表スライドの一部

※QUBO形式:制約なし二値変数二次最適化の略で、量子アニーリングに利用するにはQUBO形式にする必要がある。

続いて、奥山さんからは「量子アニーリングを用いた交通・信号機の最適化」について解説とハンズオンをしてもらいました。このハンズオンでは、実際にシンガポールの地図を利用して、Singapore Management University周辺の交通と信号の最適化を行ってもらいました。実際に知っている土地で最適化してみせるとかなり親近感が沸いてくれたようでした。

奥山さんによるハンズオンの様子
奥山さんによる”Optimizing Traffic and Traffic Lights using Quantum Annealing”のハンズオンの様子

最後に、シンガポールといえば金融の街が有名ということで藤原さんからは、「量子アニーリングを用いたポートフォリオ最適化」について解説とハンズオンをしてもらいました。こちらも株はリアルのオープンデータを利用して株式と債券を使ったポートフォリオ最適化を扱ってもらいました。どこの株を選ぶかも参加者が変更できるようにしていたため、自分たちで資産を増やすなら?と試しながら楽しんでもらうことができました!

ハンズオンでコードを動かしながら学ぶグループの様子
ハンズオンでコードを動かしながら学ぶグループの様子

これでとても情報量の多い1日目のイベント終了にしたいところだったのですが、最後に参加者の2日目からのグループワークの備え、グループを決めてもらいました。最終的に5グループの合計で23名の参加になりました!

そして、最後のアナウンスでは、「今日は持ち帰るものが多かったと思いますが、明日からはみなさんと一緒に新しいソリューションを作り上げていきましょう!」と伝えました。

これで情報量の多いイベント初日は無事に終了しました。

大関先生開発!?ソリューション開発を助けるサポートアプリ

今回のイベントはとても短い期間でアイディアとソリューションを提案して、実装もするというハードなイベントになっていました。近年はプログラミングスキルがなくても生成AIを利用すればできますが、プロンプトや生成AIの性能差によって誤差が出てしまうこともしばしばありました。

そこで今回のイベントのためのサポートアプリを大関先生に開発してもらいました。このアプリを利用することで参加者が考えるアイディアを細分化して、記述することで、量子ソリューションとして定式化の提案やコードの生成を自動で行ってもらえます。

今回のイベントではこちらを利用してもらうことでアイディアから定式化までの最初の障壁となる部分をとっぱらいより理解を深めることや考える要素を増やしてもらうなどでレベルを高めていくことができたと思います。

その様子は3日目をぜひご覧ください!

大関先生が開発したサポートアプリの一部
大関先生が開発したサポートアプリの一部:参加者が作成した36のアイディアが並んでいる

2日目:グループワークでアイディアをソリューション提案へ!

2日目から前日とは変わって、6つのグループごとにグループワークを行うことになりました。また、6チームにTAを1人ずつ配置して、一緒に議論をしながらサポートをしてもらいました。

まず、午前中にはグループのメンバーの中で興味のあるテーマを出しながら、どんなテーマにしたらいいかをグループで話し合いながら決めてもらいました。特に、我々からはシンガポールならではの問題や身近な問題に適用できないかということを考えてほしいと伝えていました。

そして、午後からはグループで議論し、前述のサポートアプリを利用しながらどんな問題設定にするか、どれくらい問題を考えるか、他に考えられる要素はないかを考え、定式化とコーディングを進めていきました。

時間が経つにつれ翌日の発表までもあまり時間がないとなると焦りも見えましたが、多くのグループでTAのメンバーによるサポートのおかげで明日までにやることを明確にして、それぞれ役割も決めながら2日目をやり切ってもらいました。

そして、グループによってはもっと納得したもので発表したい!と、2日目のイベント終了時間後の夜もDiscordを通じて発表に向けたスライド準備をしているグループも見られました。

グループごとに議論する様子
2日目の様子

2日目の様子:グループごとに議論しながら、テーマ決めやアプリを使った定式化、コーディングを楽しそうにしていました。

3日目:グループの内容を発表へ!

2日目が終わり、午前中の準備を終えたら午後はグループごとの発表となりました。午前中は主に定式化してきた内容やアイディア、実装の結果などを発表スライドにまとめる時間を当ててもらいました。発表まで数時間ともなるとどこをもっと詰めるべきか、10分の発表でどこまで話そうかなど、発表の直前までグループでの議論や準備がやみそうにありませんでした!

発表前のTeam-QuBotの最終調整の様子
発表前のTeam-QuBotの最終調整の様子

最終的に各グループのテーマは以下のようになりました。

  • Team-Q : 不確実な需要における国境の職員の配置とカウンター構成の最適化
  • Team-QuBot : 地震時の救助ロボットの捜索範囲の最適化
  • Qlueless : QAOAを用いたカイパンの選択の最適化
  • Superposition Syndicate : VQEによるサンタクロースのリュックサック最適化
  • n109 : 友達と一緒に勉強する計画スケジュールの最適化

今回のテーマを見返すとかなり多種多様なテーマで実践的な内容となりました。

例えば、Team-Qでは、シンガポールとマレーシアの国境を想定して検閲をする際にどの箇所が需要が高くなって、そこで対応できるレベルはどこまで必要なのかをゲート方式で予測して、それを利用してカウンターのレベルと職員の配置を量子アニーリングで最適化という組み合わせをした研究になりました。これは今回のゲートとアニーリングを両方やったイベントならではの、それぞれの良さを利用した面白い研究だと思います。

チーム発表の様子

また、シンガポールらしさでいうとQluelessのカイパンといった地元の料理を選んでトッピングできるプレートの最適化や、シンガポールや隣国で災害が発生した際し、瓦礫に人が埋まってしまったらどのように救助するのかを考慮して救助ロボットの捜索範囲の最適化にTeam-QuBotが取り組んでいました。

このように2日目と3日目の午前中だけの準備期間でかなり短い中での発表になりましたが、非常にレベルの高い研究テーマで発表してもらえたと思います。どのグループも途中から役割を分けて、何を理解したらいいのか、もっとよくするにはどうしたらいいかをTAと相談しながら進めてもらえました。どのチームも理解したことをうまく説明できた発表になっていたと思います!

イベントへのコメントの様子

発表を聞き終えて、初日の情報量の多い状態から、2日目、3日目と時間が経つにつれて、グループの中でかなり理解を進めていたことを改めて実感することができました。そして何より準備の過程を見ても、量子コンピュータでどうしたらこの課題が解決できるかを熱心に取り組んでいた方が多くいたことが印象的でした。

最後にLau先生、大関先生からイベントへのコメントをいただき、これからも日本とシンガポールで継続して研究を続けていけるような流れができることを期待していますというコメントをいただきました。こうして、3日間のイベントを無事に終えることができました。

TA・サポートメンバーのコメント

今回のワークショップでは、量子ゲート、量子アニーリングなどの量子量子技術に馴染みのない初学者の方から、専門的に研究されている方まで、幅広い層に参加いただきました。特に私のグループ(Team-Q)では、データサイエンスにバックグラウンドを持つ方々が、量子情報の知見を自身の研究に生かせないか試行されていました。他にも我々の活動に興味を持ってくださる参加者が数多くおり、量子情報分野のすそ野を広げる、つながりを広げるという点で、意義のあるワークショップになったのではないかと思います。

東北大学 工学部 電気情報物理工学科 武藤瑞生

実社会の課題を量子アニーリング・量子ゲートで解決することをメインテーマに、各チームが発想から定式化、実装までを一貫して経験できたことは、参加者全員にとって大きな学びになったと感じています。限られた時間でのグループワークでしたが、どのチームも熱心に議論を重ね、ユニークなアイデアを形にしており、私自身にとっても非常に有意義な3日間となりました。

東北大学大学院 情報科学研究科 奥山拓海

事前の打ち合わせで、今回のワークショップはアニーリング方式だけでなくゲート方式も取り扱うと計画しており、個人的には参加者が内容について来れるか心配でした。しかし、実際に始まってみると、幅広い年代やバックグラウンドを持った人たちが参加して、それぞれの専門と結びつけたテーマに熱心に取り組んでいました。量子コンピューターというテーマをきっかけに、こうしたメンバーを集結させることができるがQI4Uの強みだと改めて感じました。

サポートメンバー 岡田朋久

なんと8カ国目(のべ9カ国目!)の開催となる QI4U in Singapore も、とてもエキサイティングなイベントとなりました。頭をひねってさまざまなアイデアを出し、量子アニーリング / 量子コンピュータで解くにはどう問題設定を考えればよいのか、みなさん悪戦苦闘しながらもやり抜いた様子がうかがえました。最初は「量子ってよくわからないしどう使えばいいか見当もつかない」という状態でも、実際に手を動かしてみると楽しくなってきていろいろアイデアが膨らんでいく。すると今度は、やりたいことに対して時間が足りず、実装が追いつかなくなる。それを解決するためには AI をぶん回そう!そんな、現代ならではのハッカソンの姿を感じられました。
QI4U というイベントは何が起きるかわかりません。だからこそ、とても魅力的なイベントだなと改めて実感しました。

東京科学大学 修士課程卒 松本侑真

イベント終了の翌日にSMUを訪問させていただいた時のメンバーの写真
イベント終了の翌日にSMUを訪問させていただいた時のメンバーの写真

終わりに

今回のイベントの開催目的は、量子コンピューターをシンガポールの身近な話題にも使ってもらい、これから継続してシンガポールと日本で量子コンピューター分野におけるコネクションを広げたいという思いでした。

そうした思いから、今回のイベントは、SMUのLau先生、Leeさんのご協力のもと、QI4U EXPOの中でもアニーリング方式とゲート方式を両面で扱うという新たな挑戦をしたワークショップになりました。その点で、参加者、開催側を含め大きな学びを得る機会になったと思います。

イベントの開催の面で言うとリーダーである私以上に動いてくれるメンバーや頼りになる先輩がいてくれたことで手厚いサポートをすることができました。改めて、ハンズオンの準備をしてくれた武藤さん、奥山さん、藤原さん、開催に向けて色々な調整をしてもらった金箱さん、後ろでいつも支えてくれた岡田さん、松本さんにお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。

今回のイベントで私自身、自分の課題とも向き合いながら、日々失敗し、そこから成長をすることができたイベントでした。次回はUKでQI4U EXPOを実施する予定です。そこにいいバトンが渡せるように今度はこの経験を伝えていけるようにしたいと思います。

レポート作成者:東北大学大学院 情報科学研究科 博士課程前期 吉原拓磨

ワークショップ開催協力:A* STAR, Singapore Management University(SMU)