第1部:関数の多項式表現とマクローリン展開
この章では、複雑な関数をシンプルで扱いやすい「多項式( のべき乗の足し算)」の形に変形していくアプローチを学びます。その入り口となるのが、高校数学でもおなじみの「等比級数」です。
等比級数はスゴイ!
まずは、初項 、公比 の等比数列の和 を思い出してみましょう。
この和を求めるためのテクニックとして、両辺に公比 を掛けたものを引き算します。
したがって、 のとき、等比数列の和の公式は次のように求まります。
無限等比級数へのステップアップ
ここで、 を無限大()に飛ばすことを考えます。 もし、公比 の絶対値が1より小さければ()、 は に近づいていきます()。
すると、無限等比級数の和は非常にシンプルな形になります。
分数の正体?
先ほど導いた無限等比級数の公式 を、少し違った視点で見てみましょう。 初項 、公比 と置き換えてみると、次のような関数 の式が得られます。
これは驚くべき結果です。 という分数関数が、 の無限の足し算(多項式)で表現できることを意味しています。
収束する範囲()に注意
この等式が成り立つのは、あくまで公比に相当する が を満たす範囲だけです。グラフを描いてみると、 が から の間でのみ、元の分数関数と多項式の和がピタリと一致することがわかります( では発散してしまいます)。
対数の正体?
分数関数が多項式で書けるなら、これを「積分」してみたらどうなるでしょうか?
式 の両辺を で積分してみます。左辺は対数関数になります。
右辺の多項式も順番に積分していくと、次のようになります。 (※積分定数はここでは一旦置いておきます)
なんと、対数関数 も多項式で表現できることがわかりました!
逆に「微分」してみると?
今度は逆に の両辺を微分してみましょう。
左辺の微分:
右辺の微分:
よって、次のような新しい関数の展開式も手に入ります。
このように、知っている展開式を積分したり微分したりすることで、色々な関数を多項式の形に変形できるのです。
いろいろな関数を多項式へ:マクローリン展開
分数や対数だけでなく、 や 、 など、あらゆる関数 を多項式で表すことはできないでしょうか?
このとき、私たちが知りたいのは各項の係数 の値です。 これを求めるための鮮やかなアプローチを見ていきましょう。
係数 を求めるステップ
1. を代入して「バッサリ」斬る 元の式に を代入すると、 が含まれる項はすべて消え去ります。
これで最初の係数 がわかりました。
2. 1回微分して を代入 元の式を1回微分してみます。
ここに再び を代入すると、定数項になった だけが残ります。
3. 2回微分して を代入 もう一度微分します。
を代入すると:
4. 3回微分して を代入 さらにもう一度微分します。
を代入すると:
マクローリン展開の公式
この操作を繰り返していくと、一般の係数 は次のように求まることが法則として見えてきます。
(※ は関数 を 回微分して を代入した値です)
これを元の多項式の式に当てはめると、あらゆる関数 を多項式で表現する究極の公式「マクローリン展開(Maclaurin series)」が完成します。
一見複雑な関数も、このマクローリン展開を使うことで、コンピュータでも計算しやすい単純な「足し算と掛け算(多項式)」の形に落とし込むことができるのです。
代表的な関数のマクローリン展開
先ほど導いたマクローリン展開の公式 を使って、よく知られた関数を多項式に変形してみましょう。
1. 指数関数
は、何回微分しても のままです。そのため、 を代入した値は常に となります。これを公式に当てはめると、非常に美しい級数が得られます。
2. 三角関数 と
を微分していくと、 と周期的に変化します。これに を代入すると、 が繰り返されます。 偶数乗の項が消え、奇数乗の項だけが残り符号が交互に入れ替わる多項式になります。
同様に を展開すると、今度は奇数乗の項が消え、偶数乗の項だけが残ります。
数学における「奇跡の出会い」:オイラーの公式
ここで、指数関数 の展開式 に、虚数単位 を含む を代入してみましょう。 となる性質を使うと、式は次のように展開・整理されます。
これを実数部分( がつかない項)と虚数部分( がつく項)に整理して分けてみます。
奇跡の符合
なんと、前半の括弧の中身は「 のマクローリン展開」、後半の括弧の中身は「 のマクローリン展開」と完全に一致しています!
これにより、全く別物だと思われていた「指数関数」と「三角関数」が、複素数の世界で一つに結びつく世紀の公式が導かれます。
級数の収束性:その多項式はどこまで信用できる?
関数を無限の多項式(級数)で表現できることがわかりましたが、実は「どんな を代入しても無限の足し算が計算できる(発散しない)」わけではありません。 無限級数 がきちんと有限の値を持つ(収束する)範囲を知るための、強力な判定法を2つ紹介します。
1. ダランベールの収束判定法(比判定法)
隣り合う項の「比」に注目する方法です。 ある項から次の項へ進むとき、値がどれくらい変化するかを調べます。この比の絶対値の極限が より小さければ、その級数は絶対収束します。
式を変形すると、収束する の範囲(収束半径)は となります。
2. コーシー・アダマールの収束判定法(根判定法)
項の 乗根に注目する方法です。ダランベールの判定法が使えない場合にも有効です。
(※ は上極限を表します。)
判定法の適用例: と はどこまで計算できる?
先ほど導いた や のマクローリン展開は、どの範囲の で成り立つのでしょうか?
- の場合: 係数は です。ダランベールの判定法で比を計算すると となり、 でこの値は に近づきます。
- の場合: 係数は です。同様に比を計算すると となり、やはり で になります。
極限が になるということは、 がどれだけ大きな値であっても、掛け算した結果は必ず より小さくなる(収束の条件を満たす)ことを意味します。 つまり、 や のマクローリン展開は、すべての実数範囲()で有効であり、完全に一致するという非常に強力な性質を持っているのです。