第9部:複素積分の総決算 —— 留数定理と極の計算
前章で学んだ「コーシーの積分公式」とその微分の一般化は、積分を代入や微分に変換する強力なツールでした。この章では、それらの知識をすべて統合し、複数の特異点(計算が破綻する穴)を持つ複雑な関数をシステマティックに解くための最強の法則「留数定理(りゅうすうていり)」を解説します。
特異点が複数ある場合の積分:経路の分割
ある閉じた経路 の内側に、特異点が複数(例えば と )含まれている場合を考えます。 このとき、積分経路をグニャッと変形して、それぞれの特異点を囲む小さな円 と に分割することができます。正則な(特異点がない)部分を通る経路は往復で打ち消し合うため、全体の積分は「各特異点を囲む積分の足し合わせ」になります。
そして、それぞれの小さな円での積分は、前章で見たように「」という形になります。この「何か」にあたる値のことを「留数(Residue: Res)」と呼びます。 これをまとめたものが、複素解析の総決算とも言える「留数定理」です。
積分を解くという作業は、単に「それぞれの特異点での留数を計算して足し合わせる」だけのシステマティックなゲームへと変わります。
留数の計算方法 その1:1位の極
分母が のように1乗の形になっている特異点のことを「1位の極」と呼びます。 関数が の形で表されるとき、 での留数を求めるには、邪魔な分母 を掛け算して打ち消し、そのまま の極限をとるだけで求まります。
例題: の計算
分母を因数分解すると となり、特異点は と の2つ存在します。それぞれの留数を計算してみましょう。
・ での留数 に を掛けると になります。ここに を代入します。
・ での留数 に を掛けると になります。ここに を代入します。
もし積分経路 がこれら両方の特異点を囲んでいた場合、全体の積分値は留数の和に を掛けたものになります。
留数の計算方法 その2:位の極(多重極)
分母が のように複数乗になっている特異点のことを「位の極」と呼びます。 この場合、単に を掛けるだけでは分母は消せますが、コーシーの積分公式の一般化(微分の公式)を思い出すと、階乗による補正と微分の操作が必要になります。
公式としてまとめると、次のようになります。
例題: の計算
特異点は であり、分母が2乗なのでこれは「2位の極()」です。 公式に従い、 に を掛けて分母を消した残りの部分(つまり )を、 で1回微分してから を代入します。階乗の係数は です。
したがって、この積分の答えは次のように求まります。
もっと極端な例
ノートの最後にあるように、もし だったとしたらどうなるでしょうか? これは「100位の極()」となります。 留数を求めるには、 を掛けて残った をなんと「99回微分」し、 を掛けて を代入します( は何回微分しても なので、微分の計算自体は一瞬で終わります)。
このように、留数定理をマスターすれば、どんなに複雑な経路や多重の特異点を持つ積分であっても、代数的な「極限」と「微分」の計算作業に落とし込むことができるのです。