Skip to content

第5部:複素関数の不思議な世界 —— 自然な拡張と正則関数

前章で学んだ複素数平面の知識をベースに、私たちがよく知っている実数の関数 を、複素数の関数 へと「自然に拡張」していくと何が起こるのかを見ていきましょう。

指数関数の拡張と「無数の解」

実数の世界で を満たす解は のただ一つだけです。では、複素数の世界に拡張した を満たす はどうなるでしょうか? オイラーの公式を使って を代入してみます。

これが実数の (虚部が )になるためには、実部と虚部をそれぞれ比較して以下の条件を満たす必要があります。

これを解くと、 であり、かつ の整数倍()でなければなりません。つまり、解は次のように無数に存在することになります。

複素数に拡張したことで、指数関数は周期的な性質を持つようになり、方程式の解が無限に現れるのです。

対数関数の拡張と「多価関数」

次に、対数関数 を複素数 に拡張してみましょう。 複素数 を極形式 で表し、対数をとります。ここでも角度 には の周期性があることに注意してください。

驚くべきことに、一つの入力 に対して、無数に出力(値)が存在してしまいます。このような関数を多価関数と呼びます。 これでは関数として扱いにくいため、通常は角度の範囲を などのように一つに限定して使います。このように制限して得られる値を主値と呼びます。

具体例: の計算

試しに の対数を計算してみましょう。 絶対値は 、偏角は となります。

複素数の複素数乗: は実数?

対数関数が定義できたことで、いよいよ「複素数の複素数乗」という奇妙な計算ができるようになります。定義は次の通りです。

例として、虚数単位の虚数乗である を計算してみましょう。 まず、 の絶対値は 、偏角は なので、 です。これを定義式に代入します。

となり、なんと虚数単位が完全に消え去りました! 虚数の虚数乗は、まさかの実数になるという、直感に反する非常に美しい結果が得られます。


美しき微分の条件:正則関数へ

ここまで関数を複素数へと拡張してきましたが、これらの関数を使って微分や積分(複素解析)を行うためには、関数が「滑らか」でなければなりません。

複素数平面上での微分は、実数のときのように「左右」の1次元的な近づき方だけでなく、360度「あらゆる方向」からの近づき方を考慮する必要があります。 どの方向から近づいても微分の結果(傾き)がピタリと一致するという極めて厳しい条件をクリアした関数のことを正則関数と呼びます。

この厳しい条件を数式で表したものが「コーシー・リーマンの関係式」です。 一度正則関数として認められた関数は、「何度でも無限に微分できる」「閉じた経路で積分すると必ずゼロになる」といった、工学や物理学のあらゆる場面で活躍する魔法のような美しい性質を次々と発揮していくことになります。