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第11部:コーシーの公式の真の姿 —— テイラー展開とローラン展開

これまでの章で、正則関数を無限に多項式で近似する「マクローリン展開(テイラー展開)」と、境界の積分が中身を決める「コーシーの積分公式」を学んできました。 実は、この2つは全く別のものではなく、「コーシーの積分公式を少し変形するだけでテイラー展開が自然に姿を現す」という、驚くべき裏の顔を持っています。

コーシーの積分公式からテイラー展開へ

を中心とする円 の内側で正則な関数 を考えます。コーシーの積分公式は次のような形でした。

この分母にある を、中心 を使って強引に分解し、等比数列の和の公式の形を作り出します。

ここで、積分経路上の点 よりも、調べたい点 の方が中心 に近い(つまり )という条件があれば、これを無限級数 の形に展開できます。

これを元の積分公式に戻して、 を積分の外に出してみましょう。

この大きな括弧の中身をよく見てください。第8部で学んだ「グルサの公式(微分の一般化)」そのものです!つまり、括弧の中身は となり、見事に「テイラー展開」の公式が導き出されました。


特異点を囲むドーナツ —— ローラン級数展開

テイラー展開は「関数が正則な円の内部」でしか成り立ちません。特異点(計算が破綻する穴)がある場合、そこを避けるために「大きな円 から、小さな円 をくり抜いたドーナツ型の領域(円環領域)」を考える必要があります。

この領域の積分を分解すると、次のような2つの積分の引き算になります(内側の円は逆回りになるためマイナスがつきます)。

第1項(外側の円)は先ほどと同じテイラー展開の形になり、「 の正のべき乗」を生み出します。 一方で第2項(内側の円)は、距離の大小関係が逆転する()ため、分母のくくり出し方が変わり、結果として「 の負のべき乗(分母に がくる項)」を生み出します。

これをまとめたものが「ローラン級数展開」です。

第1項目の秘密:留数との繋がり

ここで、負のべき乗の項の係数 の式において、 のとき(つまり の項)を考えてみましょう。

を左辺に払うと、 となります。 お気づきでしょうか? ローラン展開における の係数 こそが、前章で積分を解く最強の鍵として活躍した「留数(Residue)」の真の正体だったのです。


具体例で見る「視点の違い」

同じ関数でも「どの領域で考えるか(どこに寄せて展開するか)」によって、テイラー展開になるかローラン展開になるかが変わります。 という関数を例に見てみましょう。この関数は に特異点を持っています。

パターン1: の領域(特異点の内側)

この領域では より の方が大きいため、 でくくって等比数列の和の形を作ります。

の正のべき乗だけが並ぶため、これは立派な「テイラー展開」です。

パターン2: の領域(特異点の外側)

この領域では より の方が大きくなるため、今度は でくくって無理やり の項を作ります。

これを展開すると、 といった負のべき乗だけが無限に続く式になります。これが「ローラン級数展開」です。

このように、同じ関数でも見る視点(距離の条件)を変えるだけで、無限級数の姿は全く異なるものへと変化します。ローラン展開を理解することで、関数の特異点周辺での振る舞いが手に取るようにわかるようになるのです。