第4部:波と回転の数学 —— 複素数平面
これまでの章でオイラーの公式を「奇跡の出会い」として紹介し、フーリエ変換でも当たり前のように利用してきました。この章では、そもそもなぜ指数関数と三角関数が結びつくのか、そして虚数 が持つ「回転」という真の姿について、複素数平面の視点から解き明かします。
複素数平面(ガウス平面)の基本
実数 と 、そして虚数単位 を用いて、複素数 を次のように表します。
これを横軸を実部 、縦軸を虚部 とした2次元の平面(複素数平面)上の点として捉えます。 原点からの距離(絶対値)を 、実軸とのなす角(偏角)を とすると、次のような関係が成り立ちます。
これを用いると、複素数 は三角関数を使った「極形式」で表現できます。
また、虚部の符号を反転させた共役複素数 を用いると、複素数の絶対値の2乗は次のように美しく計算できます。
ド・モアブルの定理と「指数関数の影」
極形式の真価は、複素数同士の「掛け算」をしたときに発揮されます。 2つの複素数 と を掛け合わせてみましょう。
三角関数の加法定理を用いてこの式を展開・整理すると、驚くべき結果が得られます。
「複素数を掛けることは、絶対値を掛け合わせ、角度(偏角)を足し合わせること」に他ならないのです。 ここで、角度の部分の関数を と置いてみましょう。式(4.6)の結果から、次のような関係が成り立っていることがわかります。
掛け算が足し算に変換される……これはまさに「指数関数」の性質そのものです。ここに指数関数との繋がりの強力なヒントが隠されていました。
オイラーの公式の再発見:微分方程式からのアプローチ
先ほどの関数 を、今度は で微分してみましょう。
ここで右辺を でくくってみると、見事に元の関数 が現れます( を利用します)。
この微分方程式を変形すると、次のようになります。
「微分して元の関数と同じ形になる(しかも定数 が飛び出してくる)」関数といえば、自然対数の底 を用いた指数関数しかありません。 これにより、第1部でマクローリン展開から導いた世紀の公式が、微分方程式の視点からも完璧に証明されました。
虚数の正体は「回転」である
最後に、2次元空間での「回転」を表す回転行列 を考えてみましょう。
この行列の性質を調べるために、固有値 を求める特性方程式 を解いてみます。
展開して整理すると、 についての2次方程式になります。
解の公式を使ってこの固有値 を求めると、次のようになります。
実数の2次元空間で「回転」を表す行列の固有値が、複素数平面の「」そのものになりました! つまり、二次元平面における 軸を「虚数化」して複素数平面とみなすことで、複雑な行列計算を必要とする2次元の回転操作が、単なる「 の掛け算」という極めてシンプルな計算に落とし込めるのです。
この「波や回転を指数関数でエレガントに扱う」という強力な基盤があるからこそ、前章までのフーリエ変換が魔法のように機能するわけです。