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第1部:シュレーディンガー方程式の成り立ち —— ミクロな世界を支配する法則

古典力学では、ニュートンの運動方程式を解けば物体の未来の位置や速度を完全に予測できました。しかし、電子や光などの極めて小さな「ミクロな世界」では、その常識は通用しません。 この章では、量子力学の心臓部であるシュレーディンガー方程式がどのようなもので、なぜそのような不思議な方程式が必要になったのか、その歴史的背景とともに解き明かします。

シュレーディンガー方程式と波動関数

まずは、この講義の主役となるシュレーディンガー方程式を見てみましょう。

ここで登場する (エイチバー)はディラック定数と呼ばれ、プランク定数 で割ったものです()。極めて小さな値であり、これがミクロな世界を特徴づけるスケールになります。

この方程式の解である 波動関数と呼ばれます。 古典力学のように「今どこにいるか」をピタリと当てることはできず、波動関数の絶対値の2乗 が**時刻 において位置 に粒子を見出す確率(確率密度)**を表すというルールがあります。

全体で粒子を見つける確率は必ず100%(つまり1)になるため、波動関数は次の規格化の条件を満たす必要があります。


なぜこの方程式が生まれたのか? —— 量子化の歴史

シュレーディンガー方程式は、一見すると複雑な形をしていますが、本質的には古典力学の「運動エネルギー + 位置エネルギー = 全エネルギー(」という当たり前の法則を表しています。 では、なぜそれがこのような偏微分方程式に化けてしまったのでしょうか?その背景には、1900年代初頭の物理学者たちの苦闘がありました。

1. エネルギー量子(1900年:プランク)

黒体放射(熱せられた物体が放つ光)のスペクトル を説明するため、マックス・プランクは「光のエネルギーは連続的ではなく、 の整数倍というトビトビの値しかとれない」と仮定しました。これがエネルギーは量子化されるという発見です。

2. 光電効果(1905年:アインシュタイン)

金属に光を当てると電子が飛び出す現象において、アインシュタインは光を「波」ではなく「粒(光子)」として捉えました。光子のエネルギー は振動数 に比例します。

3. コンプトン効果(1922年:コンプトン)

電子にX線を当てると散乱して波長がずれる現象から、光はエネルギーだけでなく運動量も持っていることが決定づけられました。運動量 と波長 、または波数 には次の関係があります。


アインシュタイン・ドブロイの関係と「演算子」

これらをまとめると、エネルギー と運動量 は、波の性質である角振動数 と波数 と結びつきます(アインシュタイン・ドブロイの関係)。

ここで、波動関数が波の基本形である複素指数関数 で表されると仮定してみましょう。 これを位置 で微分すると が飛び出し、時間 で微分すると が飛び出します。ここに などを上手く掛けて整理すると、次のような対応関係が見えてきます。

【運動量演算子】

【エネルギー演算子】

これらの演算子を波動関数 に作用させると、それぞれ となり、見事に運動量とエネルギーの値を引き出すことができるのです。


第1量子化:エネルギーの式から方程式を作る

古典力学における全エネルギーの式は次の通りです( は質量、 は位置エネルギー)。

この式に登場する を、先ほど見つけた演算子に置き換えて、右から波動関数 を掛けます。この手続きを第1量子化と呼びます。

実際に微分の形に書き下してみましょう。 は2回微分することになるため、 が出てきます。

こうして、天下り的で謎に満ちていたシュレーディンガー方程式が、古典的なエネルギー保存則と波の性質から自然に導き出されました!

Professor Masayuki Ohzeki Lecture Notes