第2部:定常状態と階段ポテンシャル —— 量子の世界の透過と反射
前章で導いたシュレーディンガー方程式を使って、実際に粒子が壁(ポテンシャル)にぶつかったときの振る舞いを計算してみましょう。古典力学の常識を覆す、ミクロな世界特有の不思議な現象が数式から浮かび上がってきます。
定常状態のシュレーディンガー方程式
時間によって変化しないポテンシャルエネルギー を考えます。このとき、波動関数 は空間部分 と時間部分に分離(変数分離)できると仮定します。
これを元のシュレーディンガー方程式に代入して整理すると、時間 を含まない定常状態のシュレーディンガー方程式が得られます。
これは行列とベクトルの固有値問題 と全く同じ形をしています。ここからは、この空間部分の関数 に絞って問題を解いていきます。
階段ポテンシャル:見えない壁に挑む波
粒子が平坦な道を進み、突然 という高さのエネルギーの段差(階段ポテンシャル)に遭遇する状況を考えます。
粒子の持つエネルギー が、この壁の高さ より大きいか小さいかによって、結果は劇的に変わります。
パターン1:エネルギーが壁より高い場合()
古典力学であれば、エネルギーが段差より大きければ、粒子は少し遅くなるだけで100%段差を乗り越えて進みます。量子力学ではどうなるでしょうか。
の領域(平坦な道)と の領域(段差の上)で、それぞれ方程式を解きます。
では、入射波と反射波の重ね合わせになります。
では、透過して進む波のみが存在します。
境界 で波動関数が連続かつ滑らか(微分が連続)であるという条件(接続条件)を立てます。
この連立方程式を解くと、入射波の振幅 に対する反射波の振幅 と透過波の振幅 の比率が求まります。
衝撃の結果 エネルギーが壁より高いにもかかわらず、反射波の振幅 はゼロになりません。つまり、乗り越えられるはずの壁にぶつかって一定の確率で跳ね返されてしまうという、量子力学特有の反射(量子反射)が起こるのです。
パターン2:エネルギーが壁より低い場合()
古典力学では、エネルギーが足りなければ粒子は100%壁に跳ね返され、壁の向こう側には絶対に行けません。
量子力学でも、反射率は となり、最終的には100%反射されます。しかし、 の領域(壁の中)の方程式を解くと、波の波数 が純虚数になり、関数が指数関数的な減衰に変わります。
衝撃の結果 振幅は急激に減少していきますが、壁の中での波動関数は完全なゼロではありません。つまり、エネルギーが足りないはずの粒子が壁の中にわずかにしみ込むのです。 これが、壁の先へと通り抜けるトンネル効果の入り口となる重要な現象です。
インタラクティブ・シミュレーター:波動関数の図示
エネルギー とポテンシャルの高さ を調整して、波がどのように反射したり、壁の中へしみ込んだりするかを観察してみましょう。