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補遺: 生成モデルの歴史と量子アニーリング ​

生成モデルは、データから「ありそうなもの」の分布を学び、新しい標本を作る模型です。手書き数字なら画素の相関、分子なら構造の規則性、粒子検出器ならエネルギー沈着の分布が対象になります。良い標本を一つ作ることに加え、複数の種類をどの割合で作るかも問われます。

ボルツマンマシンの補遺に続き、ここではBM、RBM、VAE、GAN、拡散モデルを、分布をどのように表現し、学習に必要な計算をどこで行うかという視点でたどります。後半では量子アニーリング(QA)を組み込んだ研究を、学習・生成・条件付き探索の役割に分けてレビューします。

量子アニーリングを用いる生成モデルでは、分布の学習と装置のサンプリング特性が互いに影響します。以下では、模型の構造、装置が担う計算、比較実験の条件を軸に、その関係を整理します。

1. 年表――学習しやすさを求めて分岐した歴史 ​

時期模型・方法新しく可能になったこと原著・基本文献
1985ボルツマンマシン(BM)エネルギーと熱平衡分布でデータを表し、相関差で学ぶ[1]
1986Harmonium、後のRBM二部グラフに制限し、各層の条件付き平均を簡単にする[2]。位置づけはHintonの解説 [3]も参照
2002Contrastive divergence(CD)短いマルコフ鎖による近似学習を実用化[4]
2005・2011スコアマッチング、ノイズ除去との接続規格化定数を直接計算せずに連続密度を学ぶ道筋[5], [6]
2006深層信念ネットワーク(DBN)RBMを用いた層ごとの事前学習[7]
2013–2014変分オートエンコーダ(VAE)近似推論と生成を、微分可能な目的関数で同時に学ぶ[8], [9]
2014敵対的生成ネットワーク(GAN)密度を明示せず、識別器を学習信号にして生成する[10]
2015拡散確率モデルノイズを加える過程の逆向きを学ぶ[11]
2016–2017離散VAE(DVAE)離散潜在変数と深い連続表現を接続[12]
2019複数ノイズ水準のスコア生成ノイズ水準を変えながら複雑な分布を探索する[13]
2020–2021DDPM、score SDEノイズ予測と逆時間の確率過程を統一的に扱う[14], [15]
2021–2022潜在拡散モデル圧縮した潜在空間で拡散を行う[16]

これは古い模型が新しい模型へ一方向に置き換わった年表ではありません。VAEの事前分布をBMにすることも、GANの入力分布をBMで学ぶことも、オートエンコーダの潜在空間に拡散モデルを置くこともできます。スコアマッチングはGANより前に生まれ、後になって拡散モデルと合流しました。

2. BM――分配関数の難しさを、相関の測定に移す ​

まずすべてのスピンが観測されるBMを考えます。si∈{−1,+1}、Eθ=−∑ibisi−∑i<jWijsisj とし、逆温度を β に固定します。平均対数尤度 ℓ の結合についての勾配は

pθ(s)=e−βEθ(s)Zθ,∂ℓ∂Wij=β[⟨sisj⟩data−⟨sisj⟩pθ].

第一項はデータから測れます。第二項には、現在の模型が自由に動くときの標本が必要です。これが負相であり、量子アニーラを利用する最も直接的な場所です。装置の標本から相関を測り、その差を古典計算機で重みへ反映します。

隠れ変数を含むBMでは、正相にもデータに条件付けた隠れ変数の平均が必要になります。したがって一般のBMでは、負相だけでなく条件付き推論も難しくなり得ます。「量子アニーラで学習する」は重みを量子装置だけで更新する意味ではなく、このような期待値の計算を装置に任せる場合が多いのです。

生成時には、学んだ模型の平衡分布からスピン列を出します。最小エネルギー状態だけを出せば、分布中の少数の典型例へ集中し、頻度や多様性を失う可能性があります。最適化と生成の違いが、ここで明確になります。

3. RBM――条件付き独立性で推論を簡単にする ​

RBMは可視層 v と隠れ層 h の間だけに結合を置きます。ここでも変数は±1です。

E(v,h)=−a⋅v−c⋅h−∑i,aWiaviha,p(ha=1∣v)=11+e−2β(ca+∑iWiavi).

可視層を固定すると隠れスピン同士は独立です。隠れ層を固定した場合の可視層も同様なので、二つの層を交互に更新するblock Gibbs法が使えます。一回の更新が簡単であることと、平衡分布まで速く混ざることは別です。離れたモードの間を移動するには、依然として長い時間が必要になる場合があります。

学習の手順は、①可視データを固定して隠れ層の平均を求める、②モデルから可視・隠れの標本を取り相関を求める、③正相と負相の差で重みを更新する、というものです。CDでは②をデータから始めた短い鎖で近似します。PCDでは鎖を次の更新まで保持します。QAによる方法は②の標本源を変えるので、同じ計算予算のCD・PCD・SA等と比較する必要があります。

隠れ層を消した自由エネルギーには log⁡cosh が現れ、可視変数の多体相互作用を表現します。二次のIsing模型を使っていても、観測される分布の表現力は二次の可視模型に限定されません。前補遺の導出と数値例を参照してください。

DBNはこの発想を深く積み重ねました。ただし、学習済みDBN全体を「多層のRBM一個」と呼ぶことはできません。古典的なDBNは上部の無向結合と下向きの生成結合を組み合わせます。この系譜から、認識方向と生成方向を分けて扱う模型や、潜在表現を学ぶ方法への接続が見えてきます。

4. VAE――難しい事後分布を、もう一つのネットワークで近似する ​

4.1 生成と推論を分ける ​

潜在変数 z を事前分布 pψ(z) から取り、デコーダ pθ(x∣z) でデータを作るとします。生成の向きは z→x です。データを見て潜在変数を推測する逆向きには、エンコーダ qϕ(z∣x) を用います。

pθ,ψ(x)=∫pθ(x∣z)pψ(z)dz,pθ,ψ(z∣x)=pθ(x∣z)pψ(z)pθ,ψ(x).

離散潜在変数では積分を和へ置き換えます。分母の周辺尤度が難しいため、事後分布を直接計算する代わりに qϕ を学びます。普通のオートエンコーダとの違いは、再構成だけでなく、生成に使う確率分布まで定める点です。

4.2 ELBOを一段ずつ導く ​

log⁡p(x) の積分内に q/q を入れてJensenの不等式を使うと、対数尤度の下界が得られます。同じ結果はKLダイバージェンスの非負性からも導けます。

log⁡pθ,ψ(x)=L(x)+DKL(qϕ(z∣x)∥pθ,ψ(z∣x)),L(x)=Eqϕlog⁡pθ(x∣z)−DKL(qϕ(z∣x)∥pψ(z)).

L がevidence lower bound、ELBOです。第一項は再構成の対数確率、第二項は事前分布からの離れ具合を罰します。下界と尤度の差は近似事後分布の誤差なので、再構成だけを改善しても最尤学習と同じにはなりません。

Gaussianエンコーダなら z=μϕ(x)+σϕ(x)⊙ϵ、ϵ∼N(0,I) と書けます。乱数の分布を固定し、μ,σ を通して微分するのが再パラメータ化です。離散ビットを閾値で選ぶ操作には同じ微分が使えず、連続緩和や別の勾配推定が必要です。これがDVAEとQAをつなぐ際の、サンプリング以外の課題になります。VAE原著 [8]、確率的逆伝播 [9]、[12]を順に読むと、この問題が追えます。

4.3 BM事前分布を置くと、負相が再び現れる ​

独立Gaussianの代わりに pψ(z)=e−βEψ(z)/Zψ を使います。エンコーダを固定して事前分布の係数だけを微分すると、データ全体で平均した事後分布 q¯ϕ(z)=Edataqϕ(z∣x) が正相の分布になります。

∇ψEdataL=−βEq¯ϕ∇ψEψ+βEpψ∇ψEψ.

負相の標本をQAから取ると、古典エンコーダ、QAで扱うBM事前分布、古典デコーダという構成になります。画像の全画素を量子ビットに載せず、圧縮された潜在変数だけを載せられることが重要です。

このKL項には熱力学的な読み方もあります。S[q]=−∑zq(z)log⁡q(z)、F[q]=⟨E⟩q−β−1S[q]、Feq=−β−1log⁡Z と置くと、

DKL(q∥pψ)=β(F[q]−Feq),EdataDKL(qϕ(z∣x)∥pψ(z))=Iq(X;Z)+DKL(q¯ϕ∥pψ).

右側の恒等式は、対数比に q¯ϕ(z) を挟めば導けます。事前分布を集約事後分布に合わせても、個々のデータが潜在変数に保持する情報 Iq(X;Z) は残ります。各データの事後分布を全部同じにすることが、良い生成学習の目的ではありません。

5. GAN――識別器から密度比の情報を得る ​

GANでは、乱数 z∼pz を生成器 Gθ に通し、x=Gθ(z) を作ります。識別器 Dω(x) は本物である確率を出します。基本的な目的関数は

minθmaxωV(D,G)=Epdatalog⁡Dω(x)+Epzlog⁡[1−Dω(Gθ(z))].

生成器を固定し、識別器に十分な表現力を許す理想化の下では、各 x で pdatalog⁡D+pGlog⁡(1−D) を最大化できます。微分を0と置くと

D∗(x)=pdata(x)pdata(x)+pG(x),V(D∗,G)=−log⁡4+2DJS(pdata∥pG).

DJS は両分布の平均を仲立ちにしたJensen–Shannonダイバージェンスです。識別器は密度比の情報を与えますが、実際には識別器も途中までしか学習されず、両者が動き続けます。生成器が一部の種類だけを作るモード崩壊や、勾配の弱さが問題になります。実用上は生成器に −Elog⁡D(G(z)) を用いるなど、基本のminimax式から変更することもあります。Goodfellowらの原著 [10]がこの出発点です。

QAを組み込む一つの方法は、pz を固定した独立乱数から、BMで学んだ相関のある分布へ変えることです。識別器の中間特徴からBMの学習データを作り、QAで潜在ビットを取り、古典生成器へ渡します。量子装置が画素を直接出す必要はありません。ただし、BMの事前分布を追加する効果と、そのBMをQAでサンプルする効果は、別々の比較で調べる必要があります。

6. 拡散モデル――少しずつ壊す過程から、生成の向きを学ぶ ​

6.1 ノイズ予測とスコアの関係 ​

拡散モデルでは、データ x0 に既知のノイズを段階的に加えます。DDPMのGaussian前向き過程では、αt=1−βt、α¯t=∏r=1tαr として

xt=α¯tx0+1−α¯tϵ,ϵ∼N(0,I),Lnoise=E∥ϵ−ϵθ(xt,t)∥2.

ここで βt はノイズ分散のスケジュールであり、BMの逆温度 β とは別物です。学習時には時刻を一つ選び、x0 から直接 xt を作れるため、毎回すべての前向きステップを計算する必要はありません。この二乗誤差はDDPMで使われる代表的な簡略化目的関数です。Hoら [14]を参照してください。

条件付きGaussianの対数微分を取り、xt を固定した条件付き平均を取ると、最適なノイズ予測と周辺分布のスコアが結び付きます。

st(xt)=∇xtlog⁡pt(xt)=−E[ϵ∣xt]1−α¯t,sθ(xt,t)=−ϵθ(xt,t)1−α¯t.

この「スコア」は画像の採点値ではなく、座標についての対数密度勾配です。スコアマッチングからノイズ除去への導出は前補遺にあります。

6.2 逆時間の式と、講義の物理との接続 ​

前向き過程を dx=f(x,t)dt+g(t)dWt とします。拡散係数が座標に依存しない場合、元の時刻 t を減らしながら積分する逆過程は

dx=[f(x,t)−g(t)2∇xlog⁡pt(x)]dt+g(t)dW¯t,dt<0.

W¯ は逆向きの時間に対応するWiener過程で、増分の分散は |dt| です。単に前向きのドリフトを符号反転するだけでは元の分布へ戻れず、確率がどちらに偏っているかを示すスコアが必要です。増加する逆時計 τ=T−t で書けばドリフトは −f+g2st になります。この時間の規約をそろえると、3日目のscoreと前後のドリフトに接続します。SongらのSDE論文 [15]が標準的な定式化です。

また pt∝e−βEt と表せる連続密度なら st=−β∇Et です。平衡分布の対数とエネルギー、確率過程と虚時間量子力学、前後の境界条件という講義の話題が、ここで生成モデルへ戻ってきます。ただし、実機QAの実時間シュレーディンガー発展と、学習した逆拡散過程を同じ装置上の運動とみなすことはできません。

6.3 最近の理論と、QA実装の現状 ​

Kaba・Ohzeki・Sughiyamaの研究 [17](2026年)は、扱いやすい時刻依存の条件付き分布を先に定め、それを実現する参照過程を構成します。スコアマッチングが参照過程の時間反転から現れ、条件付きflow matchingが小ノイズ極限に現れるという位置づけです。これは本講義の確率過程の見方に近い発展ですが、量子アニーラ実機による生成実験としての報告ではありません。

調査した一次資料の範囲では、学習したスコアによる逆拡散を量子アニーラ実機が担い、古典法と生成品質・全体時間を比較する、BM・VAEと同程度に確立した実験系列は確認できませんでした。存在しないと断定するものではなく、確認できた根拠の範囲です。

「Quantum diffusion」の関連研究には、Parigi・Martina・Carusoの研究 [18](2024年)や、[19]があります。前者は量子ノイズ・量子回路を使う複数構成と数値例、後者は量子状態の集団を生成する量子過程です。いずれも、その名称を理由にD-Waveによるスコア生成の実証例へ数えてはいけません。

将来、離散潜在空間の条件付き分布をQAでサンプルし、古典的な逆拡散の一部に組み込む構成は考えられます。しかし、これはここでの研究案です。目標となる各時刻の条件付き分布、Isingへの表現誤差、温度較正、全時刻の通信時間まで定義して初めて検証可能になります。

6.4 画像のノイズ除去と、拡散生成を区別する ​

[20](2023年)は、BMとQUBOを用いてノイズを含む画像を復元する実機研究です。D-Wave Advantageを使用します。ノイズ除去という操作は共通しますが、単一の観測画像について良い復元を探索することと、全ノイズ水準のスコアを学び、ノイズから新しい画像の分布を生成することは異なります。この研究を拡散モデルのQA実装と数えるのは適切ではありません。

7. 量子アニーラをどこへ組み込むか ​

役割装置へ渡すもの装置から得るもの代表的な系譜
学習時の負相現在のBMの磁場・結合勾配に使う相関の標本BM/RBM、VAEのBM事前分布
学習後の潜在生成学習済みの潜在エネルギーデコーダへ渡す潜在ビットCaloQVAE、分子生成
GANの学習済み事前分布識別器の特徴から学んだBM相関を持つ生成器入力QAAAN
条件付き生成条件を固定・誘導する磁場等条件に応じた潜在標本条件付きCalo4pQVAE、multi-mode QA
生成空間内の最適化性能を近似したQUBO高評価の候補ビット二値VAE+FMQA、ペプチド設計

模型の「量子」の意味も式で確認できます。量子Gibbs状態を用いるQBMなら、観測確率は

ρθ=e−βH^θTre−βH^θ,pθ(v)=Tr(Πvρθ),H^θ=−∑iΓiXi+Eθ(Z).

Πv は可視変数の測定結果を指定する射影です。横磁場が残れば、対角要素は一般に古典エネルギーへ指数関数をかけた値とは一致しません。一方、QAを古典BMのサンプラとして使う場合は、得られたビット列の分布を古典の e−βE に近づけます。さらに非平衡の測定分布をそのまま学習可能な生成分布として使う方法もあります。この三つを区別すると、QBMやBorn machineという名称による混乱を避けられます。AminらのQBM原著 [21]が最初の定義の基礎です。

最後の行は、目標の学習分布から忠実に標本を取ることとは目的が異なります。BOCS・FM補遺とつながるのはこちらです。また、潜在変数の条件固定と、外場による緩やかな誘導も区別します。後者が厳密な条件付き分布になるとは限りません。

8. BM・RBM研究の系譜――可能性と限界を同時に読む ​

以下の表では、結果の紹介を各論文で検証した条件に限定します。「実機」はQAを実際に呼び出した研究を指し、モデルの全計算が量子であることや量子優位性の証明を意味しません。

年・原著実装と役割確認された内容・読む際の要点
2014 [22]D-Wave型の制約を想定したソフトウェア検証接続制限や物理実装の誤差を切り分ける先駆的研究。実機での生成成功例とは区別する
2015 [23]実機、RBMのモデル期待値粗視化MNISTでCDと比較。少ない学習反復で同等以上の分類精度を報告するが、生成尤度や量子効果の優位性と同義ではない
2016 [24]実機、有効温度の推定入力エネルギーと装置分布の尺度を合わせる、生成学習の基盤
2017 [25]実機、ハードウェアに埋め込んだ無向模型最大940物理量子ビットで手書き数字・人工データを扱う。冗長な符号化と装置内学習が疎結合の制約に対処する
2018 [21]量子Gibbs模型の理論・学習法横磁場を模型自体に残すQBM。古典BMの負相をQAで近似する研究とは定義が違う
2020 [26]実機、古典学習済みRBMからの生成・推論OptDigitsで、QAとMCMCが訪れる局所的な谷の違いを評価。谷の数が増えることと正しい確率重みは別に検証する
2021 [27]D-Wave 2000Q、負相分類、画像再構成、対数尤度を比較。指標を一つに絞らないRBM実験
2021 [28]実機、BM学習と画像生成評価別に学習した識別器で生成を評価。識別器を評価に用いること自体はGANによる敵対的学習ではない
2025 [29]実機、学習中の較正学習と装置パラメータの調整を組み合わせる。固定温度を一度推定して終える構成から進む
2025 [30]実機、QAとMCMCの混合・生成リプレイ試した混合方式ではRBM学習の改善を得なかった。継続学習用の生成リプレイは実証し、古典法と同程度の忘却抑制を報告
2026 [31]非断熱発展の理論弱い問題項の摂動から、波形と分布係数の対応を導く。一般の低温分布への厳密な保証ではない
2026 [32]実機、DQAによるRBM負相波形からの温度設計と実機の追加補正を組み合わせる。報告された収束・検証誤差の改善は、比較した構造とサンプラの条件に依存する

この系列には二つの設計思想があります。一つは、装置の出す分布に合わせて模型を学ぶ方法です。もう一つは、指定した模型分布へ装置を較正する方法です。前者は装置上の生成に向き、後者は別の装置や温度への移植、物理的な係数解釈に向きます。どちらでも成功例はありますが、評価すべき対象が変わります。

フリーズやノイズの基礎には、[33]、[34]、休止による熱化には[35]があります。これらは生成モデルそのものの提案ではなく、サンプラとしての振る舞いを理解するための研究です。

9. 潜在生成の研究――Helmholtz機械からVAEへ ​

9.1 高次元データを、量子装置に入る表現へ圧縮する ​

Benedettiらの研究 [36](2018年)は、古典ネットワークで低次元の二値表現を取り出し、量子装置と協働して生成モデルを学ぶ構成です。D-Wave 2000Qの1644物理量子ビットを使い、16×16の連続値MNISTを扱いました。量子ビット数と画素数を一対一に対応させる発想から、古典側が表現を整える発想への転換として読めます。Helmholtz機械をVAEと同一視せず、認識・生成を分ける先行する系譜として位置づけます。

年・原著構成・検証歴史上の位置づけ
2018 [37]古典エンコーダ・デコーダ+QBM潜在過程。QMCで検証量子模型を潜在分布に置く目的関数を構成。原著の検証をD-Wave実機実験と誤記しない
2020 [38]実機を用いたQVAEの端から端までの学習MNIST等で競争力ある性能、潜在分布の古典的混合の遅さを検討。「優位性への道筋」は普遍的な優位性の証明ではない
2023 [39]実機、離散VAEのRBM潜在分布分子文字列表現の生成へ展開。量子側の学習は75epochで終了し、1epoch当たりは古典より遅かったと報告。生成物性分布の再現と高速化を分けて読む
2026 [40]実機、一般BM事前分布と複数のQAモード学習、無条件生成、外場による条件付き生成を使い分ける。画像・分布外検知・市場状態への応用を扱う

9.2 時間波形と外場による潜在分布の制御 ​

前補遺のDQAによるRBM学習から、生成モデルへの展開をつなぐのがKim・Parkの研究です。画像を潜在変数へ写すエンコーダと、潜在変数から画像を作るデコーダは古典ニューラルネットワークで構成し、その間の潜在分布を一般のボルツマンマシンで表します。量子アニーラが担うのは、この相関を持つ潜在変数のサンプリングです。

段階アニーリングの使い方読者が押さえる点
学習DQAでボルツマン分布を近似し、事前分布の勾配に必要な負相を求める前補遺の時間依存摂動論が、分布の温度を設計する足場になる
無条件生成より遅いQAで低エネルギーの潜在配置に標本を集中させ、デコーダへ渡す学習したエネルギー地形を、生成時の標本選択にも使う
条件付き生成・編集外場を加えて潜在配置の選ばれ方を変える外場による地形の変形を、生成内容の制御につなげる

物理として面白いのは、同じ学習済みエネルギーに対し、時間波形と外場が異なる役割を担うことです。原著の三つのモード [40]を、前補遺の「位相から確率重みへ」という議論と併せて読むと、サンプラの物理が生成モデルの設計へつながります。

多モード量子アニーリング [40]は、学習時のDQA、生成時の低エネルギーへ集中させるQA、外場による条件付きQAを切り替えます。MNIST、Fashion-MNIST、CelebAを対象に、最大2000量子ビットのAdvantage2実験を報告しています。同じエンコーダ・デコーダを使ったGaussian事前分布との比較は、相関を持つ事前分布の効果を調べる比較です。

学習時の有限温度分布と生成時の集中した分布が異なれば、実際の生成分布も学習したVAEの周辺分布から変わります。この操作を良質な標本を得るために使うことはできますが、多様性や尤度の評価を別途行う必要があります。また、独立Gaussianと一般BMを比較した改善だけでは、同じBMを最良の古典サンプラで扱った場合に対する量子優位性は決まりません。一般BMの古典的困難さも、すべての学習済みインスタンスについての指数時間下界ではありません。

非断熱発展から分布係数が生じる過程は時間依存摂動論で導出しています。

10. カロリメータ・分子・表形式データへの応用 ​

10.1 粒子シャワーを生成する ​

年・原著QAの担当段階内容と限界
[41]古典学習後の潜在生成。D-Wave 2000QChimeraに合わせたRBMを古典学習し、QA標本をデコーダに通す。温度を較正し、シャワー形状の分布を比較。全学習を量子で行った研究ではない
2025 [42]古典学習後の条件付き生成。Advantage四部のRBM事前分布、入射エネルギーの条件付け、適応的温度推定を組み合わせる。学習段階にはGPUとblock Gibbs法を用いる
2024 [43]古典学習後の実機生成。Advantage2 prototypeCaloChallenge Dataset 2へ展開する系列。グラフ構造に適した四部模型と階層表現を扱う。前の論文の独立再現実験として重複計数しない

カロリメータでは見た目に加えて、総エネルギー、層間配分、シャワーの広がり、疎性、稀な裾の振る舞いが重要です。潜在ビットを速く生成しても、物理観測量の分布がずれれば検出器シミュレーションの代替としては不十分です。四部RBMは二部RBMの単なる別名でもありません。各部を条件付きで更新できるよう、装置の接続構造に合わせて一般化した模型です。

10.2 分子を生成する方法と、良い分子を探す方法 ​

年・原著生成・最適化の構造確認された範囲
2023 [39]QAがRBM潜在分布をサンプル分子の妥当性と物性分布を評価。新薬としての活性・安全性を実証したという意味ではない
[44]二値VAEで配列を圧縮し、FMQAで潜在ビットを最適化活性と非溶血性を狙う多目的設計。BM事前分布の最尤学習ではなく、学習済み生成空間での探索
2023 [45]条件付きエネルギー模型のQA支援学習+QUBOによる候補探索学習用サンプリングと分子設計の最適化の両方を使う。論文中の速度比較がどちらの段階かを分けて読む
2026 [46]Neural Hash Functionによる二値化・正則化とD-Waveを統合比較した古典模型に対する妥当性・drug-likenessの改善を報告。学習データを超える物性指標と実験的な創薬成功は区別する
[47]固定した分子表現と予測器からQUBOを作り、QAで探索生成器の再学習を避けた逆設計。事前分布をQAで学ぶ方法とは異なる

さらにVargas-Calderónらの研究 [48]では、QAで生成する学習可能な事前分布を分子生成へつなぐ構成が提案されています。

二値潜在表現と量子サンプリングによる分子生成 ​

連続的な分子表現を二値コードへ変換し、その分布を量子アニーラで学ぶ構成を考えます。この構成はKunugiら(2026) [46]によって分子生成へ応用されました。

何を生成するのか。 入出力は分子を文字列で表すSMILESです。Transformerが文字列から連続的な特徴を抽出し、Neural Tensor Networkと多層ネットワークが固定長の潜在表現へ変換します。これを二値化してBMの可視変数に対応させ、デコーダは潜在表現を条件に文字を順番に生成します。量子ビットの測定結果は分子そのものではなく、分子を作るための潜在コードです。

NHFは何を解決するのか。 実数の特徴を0と1に丸めると、微小な入力変化が出力に伝わらず、通常の微分による学習が難しくなります。Neural Hash Function(NHF)は二値化前後のずれを抑える損失と、重み行列の直交性を促す正則化を加えます。目的関数は LNHF=Lrec+Lprior+Lquant と整理されます。

損失学習に要求すること
再構成損失 Lrec潜在コードから元のSMILESを復元できる
事前分布の損失 Lpriorエンコーダが作るコードをBMが確率的に表現できる
量子化・正則化損失 Lquant二値化で特徴が大きく変わらず、重みの方向が過度に重ならない

ここでquantizationは数値の二値化を意味し、量子力学の量子化とは区別します。さらに原著Methodsでは、逆伝播時に二値化写像の微分を恒等写像で近似します。これはstraight-through型の勾配推定です。段差関数が数学的に滑らかになった、あるいは近似のない勾配が得られた、と読むべきではありません。直交性の正則化も、出力コードの統計的独立を保証する条件ではありません。

学習と生成の手順。 この構成は次の循環で理解できます。

  1. 学習分子をエンコーダに通して二値コードを得る。
  2. そのコードから分子を復元し、再構成誤差と二値化の損失を計算する。
  3. コードの統計とBMからの標本の統計を比較し、BMのパラメータを更新する。前補遺の正相・負相がここに現れる。
  4. エンコーダ・デコーダも更新し、コードを作る側とその分布を学ぶ側を交互に改善する。
  5. 生成時は学習済み事前分布からコードを採り、デコーダで新しいSMILESを生成する。

原著のQA実装はAdvantage2_prototype2.6を用い、可視128・隠れ128変数の事前分布に1215物理量子ビットを使用します。可視変数間にも結合を持たせ、隠れ変数間の結合は置かない構成です。鎖による埋め込みを含むため、256モデル変数と1215物理量子ビットを同じ数として扱えません。古典側はMetropolis–Hastings更新を用いるSAでサンプリングし、QA側は結合・バイアスを再スケールして有効温度を調整します。原著のQBMという呼称と、実機が理想的な量子Gibbs分布を厳密に返すという主張も分けて読みます。

QAに実際に渡すもの――BMのエネルギーとQUBO係数 ​

この研究でQAに与えるのは、分子の潜在コードの分布を学習するBMのエネルギーです。 QEDや結合親和性を直接目的関数にした分子最適化QUBOではありません。以下は原著Methodsの式(15)・(17) [46]の模型を、符号と変数を統一して説明したものです。QUBOへの変換は本補遺で導きます。

エンコーダが作る128ビットをスピン表現 vi∈{−1,+1} とし、BM内部の補助的な隠れスピンを ua∈{−1,+1} とします。「可視」はBMから見た呼称であり、原子や分子の観測量を直接表すわけではありません。隠れスピンも128個です。

Eψ(v,u)=∑i<jJijvivj+∑i,aLiaviua+∑ibivi+∑acaua.
学習する係数役割と符号の意味(上式の正符号規約)
Jij二つの潜在コード成分の組合せを調整する。負なら同符号、正なら異符号の配置を低エネルギーにする
Lia潜在コードと隠れスピンを結ぶ。隠れスピンを介してコードの複雑な依存関係を表す
bi潜在成分の偏り。正なら vi=−1、負なら vi=+1 をエネルギー上で優遇する
ca隠れスピンの偏り。符号の解釈は bi と同様

これらは学習された重みで、特定の原子間の化学結合エネルギーではありません。また結合係数は相関係数そのものではなく、他の結合・外場・温度と合わせて相関を決めます。利用できない辺の係数は0とし、隠れスピン同士の uaub 項は置きません。この意味で通常の二部RBMより可視側の相互作用を増やした、半制限型のBMです。

分布のどの部分をQAから得るのか。 古典BMとしての目標分布と、デコーダへ渡す可視コードの周辺分布は

pψ(v,u)=e−βEψ(v,u)Zψ,pψ(v)=∑upψ(v,u).

QAの読み出しから得た標本の可視部分を使えば、隠れ変数を列挙して和を取らずにコードを生成できます。学習中は標本から平均・二体相関を推定します。上式は古典BMの目標であり、有限横磁場や非平衡性を含む実機出力との一致は較正・検証の対象です。

係数はどう学習されるのか。 エンコーダを一時的に固定し、事前分布の負の対数尤度を最小化するとします。古典BM、固定 β の場合、微分は次の形です。

∂Lprior∂Jij=β(⟨vivj⟩+−⟨vivj⟩−),∂Lprior∂Lia=β(⟨viua⟩+−⟨viua⟩−),∂Lprior∂bi=β(⟨vi⟩+−⟨vi⟩−),∂Lprior∂ca=β(⟨ua⟩+−⟨ua⟩−).

正相 + は学習分子から作ったコードを固定し、隠れ変数について条件付き平均を取ります。負相 − はBM全体からの平均です。QAに任せる主要な計算は、この負相の標本生成です。 係数の更新とTransformerの逆伝播は古典計算で行います。生成段階でも同じ学習済み模型から標本を得ます。上の微分式は目標とする古典分布からの導出であり、QA標本で置き換えた勾配が厳密であるという保証ではありません。

QUBOで書けば何になるか。 s=(v,u) をまとめ、結合を Krs、外場を ar と書きます。可視同士なら K=J、可視・隠れなら K=L、隠れ同士なら K=0 です。sr=2xr−1 によって xr∈{0,1} へ変換すると

E(s)=∑r<sKrssrss+∑rarsr=C+∑rqrxr+∑r<sQrsxrxs,Qrs=4Krs,qr=2ar−2∑s≠rKrs,C=∑r<sKrs−∑rar.

和の中では Ksr=Krs とします。このQUBOは各組を一回だけ数える上三角規約です。対称行列の xTQx で書く場合は非対角成分を半分にします。例えば本補遺の説明用模型 E=−0.3s1s2+0.2s1−0.1s2 は E=−0.4+1.0x1+0.4x2−1.2x1x2 になります。これは実験の学習済み数値ではありません。

QUBOの二次係数は潜在変数間の学習済み結合、一次係数は学習済み外場と結合から決まります。QEDを直接増やす重み、原子価を守るペナルティ、分子構造の選択変数はこの式に含まれません。したがって、同じエネルギーを使っていても、最低値の解だけを探す最適化と、学習・生成のために分布から標本を得る操作は目的が異なります。

実機へはさらに論理スピンの埋め込みを行い、同じ変数を表す物理量子ビット間に強磁性的な鎖結合を加えます。この鎖強度は埋め込みの制御パラメータで、分子データから学んだ J,L,b,c とは役割が異なります。温度・装置範囲に合わせた再スケーリング後の結合と外場が、実際に装置へ設定される値です。

何が改善したのか。 ChEMBL由来の分子で学習したTransformer構成について、各条件で10,000回生成した結果を示します。下表は原著の表1・2から必要な項目を選び、日本語に整理したものです。

サンプラ・二値化有効率(%)有効分子内の一意率(%)重複除去後の分子数一意分子中のQED≧0.7(%)
古典BM・Gumbel-Softmax52.2099.945,21640.81
古典BM・NHF61.9598.096,07743.15
QBM・Gumbel-Softmax71.8895.106,83552.60
QBM・NHF96.9751.925,03566.79

有効率はRDKitで分子構造として解釈できた割合です。一意率は、その有効な出力の中で重複を除いた割合です。QEDはdrug-likenessの指標で、学習データでQED≧0.7を満たす割合は31.61%でした。

結果からどこまで言えるか。 NHFは古典側でも有効率を改善しているので、改善全体をQAだけに帰属できません。一方、同じNHFで比較するとQA側の有効率と高QED分子の割合は高く、サンプラを変更した効果を調べる根拠になります。ただしQA+NHFでは、一意な分子は5,035個で古典+NHFの6,077個より少ない。「有効な文字列を多く出す能力」と「異なる候補を広く供給する能力」は別の評価軸です。一意率だけでモード崩壊を断定はできませんが、多様性を同時に評価する必要性は明瞭です。

「学習データを超える」は、ここでは高QED分子の比率が学習集合より高いことを指します。これは興味深い分布の変化ですが、学習分布の忠実な再現や、標的への活性・合成成功を意味しません。生成モデルを創薬に使うなら、重複を除いた候補数、足場の多様性、目的の物性、実験的な検証へ評価をつなぐ必要があります。

この構成の核心は連続表現の学習、二値コードの設計、物理サンプラによる分布生成を一つの循環にしたことです。第11.1節のAANの対照研究と同様、表現・目的関数の工夫とサンプラの寄与を分けて比較すると、次に検証すべき物理が見えます。

10.3 表形式データと生成リプレイ ​

年・原著対象とQAの役割評価上の意味
2021 [49]ISCXの二値化データでRBMを学習し、少数クラスの標本を生成生成によるデータ不均衡への対処を検証。報告された設定のすべてでQAがCDを上回るわけではない
2025 [50]Pegasusへ可視120・隠れ120の模型を埋め込み、大量の攻撃データを生成SMOTE等との下流分類の比較。論文のQRBMという名称だけから量子Gibbs事前分布とは判断しない。バッチの処理時間と全データ生成時間を分ける
2025 [30]過去クラスの標本を再生成し、破滅的忘却を抑える稀な状態を探索する性質が、最尤学習以外で役立つ可能性を検証

金融への展開にはNooraniらの研究 [51](2026年)もあります。少量の履歴から裾のリスクを推定する生成的データ拡張を扱います。生成的データ拡張の有用性と、QAによる計算時間の短縮は、それぞれ別の比較を必要とします。

11. GANとQA――特徴分布を学ぶQAAAN ​

Wilson・Vandal・Hogg・Rieffelの研究 [52](2021年)が、この系列の直接的な実機研究です。

計算の循環は、①識別器がデータから特徴を抽出する、②その低次元特徴の分布をBMで学ぶ、③D-WaveからBMの潜在標本を得る、④古典生成器が画像へ変換する、⑤識別器と生成器を更新する、というものです。通常のGANで固定する入力乱数の分布にも、学習した構造を与えます。

原著は縮小・二値化MNISTについて接続構造とサンプラを比較し、FIDとInception Scoreでは量子版・古典版が同等の性能と報告しています。LSUN bedroomの大きなカラー画像の実験は古典サンプリングを使用しています。

この結果は、QAをGANに組み込めることの実証として意味があります。量子サンプラを加えれば一律にGANを改善するという結論ではありません。また「量子GAN」の文献にはパラメータ化量子回路を生成器とするものも多く、それらをQAAANの実機成果に加算しないことが大切です。

11.1 連想記憶と量子揺らぎの寄与の分離 ​

量子サンプリングに改善の原因を求める解釈への対照となるのが、Urushibata・Ohzeki・Tanakaの研究 [53](2022年)です。

問いは、連想記憶を追加した効果と、量子揺らぎを導入した効果を分けられるかです。標準GANに加え、BMを連想記憶とするAANについて、古典MCMCと量子モンテカルロ(QMC)によるサンプリングを比較しました。識別器・生成器の損失、Inception Score、FIDを調べ、両方のAANで標準GANより学習が安定し、多様な画像が生成される一方、MCMCに対するQMCの性能差は認められないと報告しています。

比較切り分ける効果
標準GANと、古典MCMCを使うAAN学習した特徴分布を生成器へ渡す、連想記憶の効果
古典MCMCを使うAANと、QMCを使うAAN連想記憶を持つ構成での、量子揺らぎを含むサンプリングの効果

この結果は、標準GANからの改善を量子性だけに帰属できないことを示すカウンターです。Wilsonらの実機による組み込みの実証と並べると、実装できることと、量子性が性能向上の原因であることを区別できます。ただし、ここでのQMCは古典計算機上の量子系のシミュレーションです。実機の非平衡ダイナミクスを全面的に再現するものではなく、この比較から量子アニーラ一般の優位性を否定することもできません。

12. 何をもって生成モデルの改善と呼ぶか ​

比較する量分かることそれだけでは分からないこと
保留データの尤度・ELBO分布への適合、推論下界ELBOは近似事後分布の誤差も含む
FID・識別器・再構成誤差特徴空間の類似性、再構成の質真の尤度や全モードの頻度
分子の妥当性・新規性・物性対象領域の条件を満たす程度合成・活性・安全性の実験的な確証
物理観測量の分布と裾シミュレーションの用途に沿う精度測っていない多変量相関
下流分類・異常検知生成データが用途に役立つか生成分布全体の正しさ
全体時間・有効標本数計算資源としての有用性アニーリング時間だけからは評価できない

特に量子アニーラでは、模型の結合グラフ、物理量子ビットへの埋め込み、温度較正、読み出し、通信、古典ネットワークを含む時間を区別します。独立性の低い標本を大量に得る場合、標本数だけでは負相の精度を比較できません。

比較は少なくとも二段階必要です。まず同じ潜在模型・同じエンコーダとデコーダでQAと古典サンプラを交換します。次に、古典側も別のグラフや事前分布を選べる条件で、同じ品質へ到達する全体コストを比較します。前者は量子サンプラの寄与、後者は生成手法としての実用性を調べます。原著が特定のMCMCと比較して速いことと、最良の古典生成モデルを超えることは別の主張です。

2026年時点で一次資料から読み取れる到達点は、BMの負相・潜在分布・条件付き生成を量子アニーラに担当させる構成が、画像以外の用途まで実験されていることです。拡散モデルとの物理的接続は深い一方、スコア生成をQA実機で行う証拠の厚みは同じではありません。この差を保ったまま読むと、次にどの比較を行うべきかが具体的になります。

13. 理解を確かめる問題 ​

  1. 全観測BMで負相のサンプラだけを変更した場合、データから計算する正相は変わりますか。RBMの隠れ変数の正相との違いも説明してください。
  2. 二値潜在変数を持つVAEで、エンコーダを固定したときの事前分布の勾配を導き、QAを呼ぶ箇所を示してください。
  3. pdata=(0.8,0.2)、pG=(0.5,0.5) について最適識別器を求めてください。
  4. 同じVAEの生成時だけBMの逆温度を上げたとき、学習時の周辺分布を忠実に生成していますか。
  5. 前向き過程が定常な標準GaussianのOrnstein–Uhlenbeck過程 dx=−xdt+2dW のとき、逆時計でのドリフトを確かめてください。
  6. 「量子拡散モデル」「量子着想型最適化」「D-Waveからの潜在標本」の三つは、どの資料を見れば区別できますか。

解答の手掛かり ​

  1. 全観測BMでは正相はデータの相関なので変わりません。RBMの可視・隠れ相関には現在の重みと温度に依存する隠れ層の条件付き平均が入ります。
  2. 式005の第一項をエンコーダ標本、第二項を事前分布の標本で計算します。QAは第二項を担当できます。
  3. D∗=(8/13,2/7) です。識別器がどの状態でも同じ値を返すとは限りません。
  4. 一般には違います。低温化した事前分布をデコーダへ通す別の生成分布です。
  5. s=−x なので、増加する逆時計のドリフトは −f+g2s=x−2x=−x です。平衡で時間反転対称な過程として整合します。
  6. 手法節と実験節のハミルトニアン、回路、使用ソルバ、実機呼び出し、シミュレータ、時間の定義を確認します。論文の題名だけでは決まりません。

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