補遺: アハラノフの2ベクトル形式からscoreを見る
3日目の終盤では、前向きに進む波動関数と後ろ向きに戻る波動関数を同時に見ることが、Aharonovの二状態ベクトル形式、弱測定、ポストセレクションの物理と対応する、と触れられました。ここではその話を、拡散モデルのscoreの正体を暴くための補遺として整理します。
1. 2つの境界条件で現在を見る
通常の量子力学では、初期状態
と書きます。これは過去から現在へ進む状態です。
Aharonovらの二状態ベクトル形式では、これに加えて、未来側で選ばれた終状態
として同時に考えます。すると時刻
という「前から来たket」と「後ろから来たbra」の組で記述されます。これが2ベクトル形式です。過去の準備だけでなく、未来の選別、つまりポストセレクションも現在の記述に入る、という見方です。
3日目の講義で出てきた
は、まさにこの形を虚時間・確率過程側へ移したものです。ここで
と読むと、
は、位置
です。分母は
2. 弱値として現在の量を見る
二状態ベクトル形式で自然に現れる量が弱値です。演算子
です。普通の期待値が
ここで位置
です。一方、左から、つまりbra側から見た運動量は
です。符号が反対になるのは、運動量演算子がket側では右に作用し、bra側では左に作用するからです。
3. scoreは2つの局所運動量のずれである
拡散モデルで学習するscoreは
でした。
です。上の2つの局所運動量弱値を使えば、
と書けます。多次元ならそのまま
です。
これが、量子力学の形式で見たscoreの正体です。scoreは単に「密度が大きい方向を向く勾配」ではありません。2ベクトル形式で見ると、現在位置
虚時間表示では、運動量の代わりにEuclid化された生成子を
と置けば、
になります。実時間では複素的な弱値の差だったものが、虚時間・確率過程の表示では実のscoreとして現れます。
4. scoreはゲージに依らない
3日目の講義では、
としても、積
は変わりません。
この変換で、
は変わりません。したがってscoreは、2つの波動関数の分け方に依存しない、観測される確率密度そのものに属する量です。
弱値の言葉で言えば、
は不変です。scoreが機械学習で安定して学習すべき対象になるのは、この不変量を見ているからだ、と言えます。
5. 反断熱項としての意味
3日目の本文では、
と置きました。すると
です。
逆向き生成で必要になる補正
は、前向きの力をただ反転するだけでは失われる、未来側の境界条件からの情報を戻す項です。Aharonovの2ベクトル形式で言えば、ポストセレクションされた未来から来るbraが、現在の局所運動量にどれだけ食い込むかを教える量です。
したがって、拡散モデルのscore matchingは、量子力学風に言い換えると、各時刻・各位置で
を学習していることになります。これは、単なる統計的な勾配推定ではなく、前向き過程と後ろ向き過程を同じ中間分布に貼り合わせるための、局所的な反断熱情報を学んでいる、という解釈です。
6. まとめ
拡散モデルのscoreは、機械学習の用語では
です。つまりscoreとは、前向きketと後ろ向きbraが作る2ベクトルの局所重なりを、空間方向にどれだけ傾ければよいかを示す量です。
一言で言えば、scoreは「未来で選ばれた分布へ現在を整合させるための、弱値としての運動量差」です。これが見えると、拡散モデル、Schrodinger bridge、反断熱駆動、そしてAharonovの2ベクトル形式が、同じ数式の別々の顔としてつながります。
