2日目: QAOA、量子モンテカルロ、p-spin模型
この日の式の地図
2日目は、1日目の連続時間の量子アニーリングを、量子回路・古典確率・平均場解析へ翻訳する回です。QAOAは「離散化されたQA」として、SQAは「量子系を虚時間方向を持つ古典系としてサンプリングする方法」として、p-spin模型は「相転移とギャップの難しさを解析する模型」として出てきます。
| 段階 | 式の役割 | 対応ページ |
|---|---|---|
| QAOA | 交互ユニタリと評価関数を定義する | 科学大 p.12 / 20260903 p.7 |
| Trotter/BCH | 非可換な時間発展をゲート列へ分解する | 科学大 p.12-13 / 20260903 p.7-8 |
| 最適制御 | QAOAの交互構造をbang-bang制御として読む | 科学大 p.14-15 / 20260903 p.8-9 |
| 量子モンテカルロ | 分配関数を虚時間方向の古典スピン系へ写す | 科学大 p.16-17 / 20260903 p.10 |
| p-spin解析 | 平均磁化を導入して自由エネルギーと鞍点方程式を出す | 科学大 p.18-20 / 20260903 p.11-12 |
| QAOA解析 | QAOAの測定分布をp-spin模型で積分表示する | 科学大 p.20-21 / 20260903 p.12 |
コラム 2日目 0:00:27-0:17:44 / 0:17:44-0:21:37
配信前のウォームアップと、集中講義の中日
配信前には、スパースモデリングを料理番組風にたとえる遊びや、QFTをめぐる軽い導入が流れました。全データを律儀に見るのではなく、意味のある成分を選び、ノイズを落とすという発想を、講義前の肩慣らしとして置いています。
その後、集中講義は夏の風物詩だが、15コマや2単位の時間割を通常学期の外へ押し込むため、日程調整がかなり難しいと語られました。今回は3日間に圧縮され、2日目が体力的にも内容的にも最も苦しい山場だ、という位置づけです。
配信前には、スパースモデリングを料理番組風にたとえる遊びや、QFTをめぐる軽い導入が流れました。全データを律儀に見るのではなく、意味のある成分を選び、ノイズを落とすという発想を、講義前の肩慣らしとして置いています。
その後、集中講義は夏の風物詩だが、15コマや2単位の時間割を通常学期の外へ押し込むため、日程調整がかなり難しいと語られました。今回は3日間に圧縮され、2日目が体力的にも内容的にも最も苦しい山場だ、という位置づけです。
配信前の時間帯には、スパースモデリングを料理番組のように語る軽い導入が流れます。全データを律儀に測るのではなく、意味のある少数の成分を選び、ノイズを落として本質的なパラメータだけを残す、という発想が冗談まじりに紹介されます。数理的にはL1正則化や圧縮センシングの感覚に近い話です。
その後、集中講義の中日としての体力的な重さにも触れられます。15コマや2単位の時間割を通常学期の外へ押し込むため、集中講義は夏の風物詩である一方、講師にも受講者にもなかなか負荷が大きい形式です。今回は3日間に圧縮されているため、2日目が内容的にも時間的にも山場になります。
このウォームアップは、講義本編に入る前の雑談でありながら、後で出てくる「全部をなめるのではなく、構造を使って探索する」という主題にも重なります。スパース性、最適化、確率的な探索は、量子アニーリングやQAOAと直接同じものではないにせよ、同じ数理的態度を共有しています。
コラム 2日目 0:21:37-0:22:34 / 0:22:34-0:26:23
大学院講義が3000回近く視聴される違和感
2日目の冒頭では、1日目の配信が大学院講義としてはかなり多く視聴されていることへの驚きが語られました。通常の大学院講義は、受講者が数人から十数人でも珍しくありません。専門的な講義が開かれた形で残ること自体が、研究教育の形を少し変えています。
同時に、大学院生には自分の専門だけでなく、隣接分野や少し遠い分野にも触れてほしい、というメッセージがありました。QAOAやSQAの話が、量子計算だけでなく統計力学、制御理論、情報統計へ横断していくのは、その姿勢と一致しています。
2日目の冒頭では、1日目の配信が大学院講義としてはかなり多く視聴されていることへの驚きが語られました。通常の大学院講義は、受講者が数人から十数人でも珍しくありません。専門的な講義が開かれた形で残ること自体が、研究教育の形を少し変えています。
同時に、大学院生には自分の専門だけでなく、隣接分野や少し遠い分野にも触れてほしい、というメッセージがありました。QAOAやSQAの話が、量子計算だけでなく統計力学、制御理論、情報統計へ横断していくのは、その姿勢と一致しています。
2日目の冒頭では、1日目の配信が大学院講義としては異例に多く視聴されていることへの驚きが語られます。通常の大学院講義は、分野が尖っているため受講者が数人から十数人程度になることも珍しくありません。その講義が数千回見られている状況は、講師自身にもかなり不思議なものとして受け止められています。
同時に、大学院生には自分の研究だけでなく、隣接分野や少し遠い分野にも触れてほしいというメッセージが語られます。研究が楽しいほど自分の専門に閉じがちですが、別分野の講義を聞くと、今の自分の問題を違う言葉で見直すきっかけになります。
西森先生に研究の進み具合を聞かれた思い出など、大学院時代の軽いエピソードも挟まれます。厳しい研究指導や専門講義の記憶を笑いに変えつつ、QAOA、SQA、p-spin模型を量子計算・統計力学・制御理論の横断として聞いてほしい、という導入になっています。
1. QAOAの状態と評価関数
QAOAでは、まず混ざった初期状態
を用意します。これは横磁場ドライバー
深さ
です。板書では角度の記号として
最適化する評価関数は
です。
コラム 2日目 1:55:39-2:23:19
QAOAでは、スピンではなく角度を最適化する
講義中盤では、QAOAが量子回路のパラメータを変分する方法として説明されました。探索しているのはスピン配置そのものではなく、目的ハミルトニアンとミキサーをどの順番で、どの角度だけ作用させるかです。
連続時間QAを時間分割し、ハミルトニアンの足し算を交互作用へ分け、さらに各時間幅を自由なパラメータとして解放するとQAOAになります。講義ではこれを、QAをデジタル化し、スケジュールを変分化したものとして整理しています。
講義中盤では、QAOAが量子回路のパラメータを変分する方法として説明されました。探索しているのはスピン配置そのものではなく、目的ハミルトニアンとミキサーをどの順番で、どの角度だけ作用させるかです。
連続時間QAを時間分割し、ハミルトニアンの足し算を交互作用へ分け、さらに各時間幅を自由なパラメータとして解放するとQAOAになります。講義ではこれを、QAをデジタル化し、スケジュールを変分化したものとして整理しています。
この場面では、QAOAが変分量子アルゴリズムとしてどのように定義されるかが説明されます。最適化しているのはスピン配置そのものではなく、目的ハミルトニアンとミキサーをどの順番で、どの角度だけ作用させるかという回路パラメータです。
質問に答える形で、これはまだTrotter分解そのものではなく、まず変分アルゴリズムとしての回路の定義である、と確認されます。ただし、連続時間の量子アニーリングを時間分割し、ハミルトニアンの和を交互作用に分け、各時間幅を自由パラメータとして解放すると、QAOAに近い形が自然に現れます。
講義では、Farhiが量子断熱計算に続いてQAOAにも関わったことに触れながら、同じ発想がアナログな時間発展とデジタルなゲート列の間を行き来している点が強調されます。浅い回路で何ができるか、パラメータ空間のbarren plateauをどう避けるか、といった現在の研究課題への接続も置かれています。
2. QAからQAOAへ: 時間発展の離散化
1日目の終わりに見たように、連続時間の時間発展は
です。時間を
と近似できます。各時刻のハミルトニアンが
なら、Trotter分解によって
と書けます。
この式の
を固定スケジュールから切り離し、自由な変分パラメータとして最適化するとQAOAになります。
3. Lie-Trotter、Suzuki-Trotter、BCH
非可換な演算子を含む時間発展では、指数関数を安易に分けることはできません。板書では、まずLie-Trotter分解
が書かれ、続いて対称なSuzuki-Trotter分解
が紹介されています。対称分解では誤差次数が改善されます。
なぜ誤差が出るかは、2次まで展開すると見えます。
一方で
です。差は
で、非可換性そのものが誤差になります。Baker-Campbell-Hausdorff公式で書けば
です。QAOAの交互ゲートが意味を持つのは、
コラム 2日目 2:00:07-2:07:14 / 2:07:14-2:11:00 / 4:31:46-4:33:16
鈴木-トロッター分解という名前の重み
鈴木-トロッター分解のところでは、鈴木増雄先生の仕事と、その流れを受けた統計力学の研究文化が語られました。数学的には指数演算子の分解ですが、量子スピン系の数値計算や量子古典対応へ持ち込んだことで、物理の道具として大きな意味を持ちます。
講義では、鈴木先生、西森先生、そして大関先生へ続く「道具を整理して、別の問題へ使う」系譜としても紹介されました。既存の式をただ引用するのではなく、この問題に使うと何が見えるかを発見するのが面白い、という研究観がここにあります。
後半の雑談では、海外滞在中に西森先生がSkypeで様子を聞いてくれた、という個人的なエピソードも語られました。こうした人のつながりも含めて、数式の系譜が単なる引用関係ではなく、研究文化として伝わっていることが見えてきます。
鈴木-トロッター分解のところでは、鈴木増雄先生の仕事と、その流れを受けた統計力学の研究文化が語られました。数学的には指数演算子の分解ですが、量子スピン系の数値計算や量子古典対応へ持ち込んだことで、物理の道具として大きな意味を持ちます。
講義では、鈴木先生、西森先生、そして大関先生へ続く「道具を整理して、別の問題へ使う」系譜としても紹介されました。既存の式をただ引用するのではなく、この問題に使うと何が見えるかを発見するのが面白い、という研究観がここにあります。
後半の雑談では、海外滞在中に西森先生がSkypeで様子を聞いてくれた、という個人的なエピソードも語られました。こうした人のつながりも含めて、数式の系譜が単なる引用関係ではなく、研究文化として伝わっていることが見えてきます。
鈴木-Trotter分解の話では、単なる指数演算子の公式にとどまらず、量子スピン系を古典統計力学の形に翻訳したことの意味が語られます。非可換なハミルトニアンを分解し、虚時間方向にスライスを増やすことで、量子系が一つ次元の高い古典スピン系として見えるようになります。
鈴木増雄先生の仕事は、数学的な厳密さだけでなく、量子系の数値計算と統計力学の橋として大きな意味を持ちます。講義では、鈴木先生、西森先生、そして大関先生へ続く道具の受け渡しとして、この分解が位置づけられています。研究は式を覚えるだけではなく、既存の道具を別の問題に移したときに何が見えるかを探す営みだ、という語りです。
後半では、海外滞在中に西森先生がSkypeで研究の様子を聞いてくれたという個人的な話も出てきます。式の名前には、その式を作った人、その式を使ってきた人、そしてそれを次の世代へ渡す人の関係が残ります。鈴木-Trotter分解は、この講義ではQAOA、SQA、p-spin模型をつなぐ研究文化の節点として扱われています。
4. Pontryagin原理とbang-bang制御
QAOAの交互構造は、最適制御の言葉でも理解できます。古典的な制御問題では、状態
と動き、終端コスト
を最小にする
です。部分積分と変分により、Pontryagin関数
を用いた正準方程式
と、終端条件
が出ます。制御入力は
として選ばれます。
量子の場合は、状態
で、シュレーディンガー方程式
を拘束として加えます。終端変分から
が出ます。
制御を
と書くと、Pontryagin関数は
です。制御
となります。
というbang-bang制御が現れます。
コラム 2日目 2:51:36-2:56:20 / 3:45:03-3:49:29
ロケット制御からbang-bang制御へ
Pontryagin原理は、1950年代の制御理論、特に限られた入力で軌道を制御する問題から生まれたものとして紹介されました。物理ではハミルトニアンが与えられて自然に動く、という見方が多いのに対し、制御理論では外からどう入力するかが主役になります。
QAOAとの接続では、制御を連続的に中途半端な値へ保つより、目的ハミルトニアンとミキサーをオン・オフで切り替えるbang-bang制御が自然に出る、と説明されました。講義では、QAOAが後から最適制御の言葉で理解し直されたことも、研究史の面白さとして語られています。
Pontryagin原理は、1950年代の制御理論、特に限られた入力で軌道を制御する問題から生まれたものとして紹介されました。物理ではハミルトニアンが与えられて自然に動く、という見方が多いのに対し、制御理論では外からどう入力するかが主役になります。
QAOAとの接続では、制御を連続的に中途半端な値へ保つより、目的ハミルトニアンとミキサーをオン・オフで切り替えるbang-bang制御が自然に出る、と説明されました。講義では、QAOAが後から最適制御の言葉で理解し直されたことも、研究史の面白さとして語られています。
Pontryagin原理の導入では、ロケットや軌道制御のような1950年代の制御理論が背景として語られます。物理ではハミルトニアンが与えられれば自然に状態が動く、という見方が多いのに対し、制御理論では外からどのような入力を入れると目的を最もよく達成できるかが中心になります。
この視点をQAOAに当てると、連続的なスケジュールをなめらかに調整するよりも、目的ハミルトニアンとミキサーハミルトニアンをオン・オフで切り替えるbang-bang制御が自然に出てきます。つまりQAOAの交互ユニタリは、変分回路として発明されたものに見えると同時に、最適制御の言葉で再解釈できます。
講義では、後から別の理論の言葉で既存のアルゴリズムが理解し直される面白さも強調されます。量子アニーリング、QAOA、Pontryagin原理、Schrodinger bridgeは別々の名前を持っていますが、有限時間でどの経路を通すかという問いを共有しています。
5. Quantum Schrodinger Bridgeの形
板書では、Quantum Schrodinger BridgeもQAOAに近い最適制御の見方として出てきます。ここでは、ハミルトニアンそのものを滑らかに設計する問題として
のような汎関数を考えます。第1項はハミルトニアンの大きさを罰則として測る項で、第2項は状態の時間発展を拘束する項です。
ハミルトニアンに関する変分をとると、
から
の形が得られます。さらに状態方程式を使うと、理想化された設定では
となり、最小作用の経路が時間一定の有効ハミルトニアンで結ばれる、という見方になります。この話は3日目のSchrodinger bridge、拡散モデル、反断熱項の接続へ向かう前振りです。
コラム 2日目 2:45:14-2:51:36 / 4:09:50-4:18:26
講義準備の途中で、研究の芽が出る
休憩明けには、講義ノートを準備している途中で別の計算を思いつき、研究ノートのほうが進んでしまった、という裏話がありました。講義をするために整理しているはずが、整理そのものから新しい問いが生まれる、という研究者らしい場面です。
さらに後半では、この集中講義を量子アニーリングの教科書や今後の研究方向につなげたい、という話も出ています。QAOA、Pontryagin原理、Schrodinger bridgeのような話題を同じ流れに置くこと自体が、講義を通じた研究の整理になっています。
休憩明けには、講義ノートを準備している途中で別の計算を思いつき、研究ノートのほうが進んでしまった、という裏話がありました。講義をするために整理しているはずが、整理そのものから新しい問いが生まれる、という研究者らしい場面です。
さらに後半では、この集中講義を量子アニーリングの教科書や今後の研究方向につなげたい、という話も出ています。QAOA、Pontryagin原理、Schrodinger bridgeのような話題を同じ流れに置くこと自体が、講義を通じた研究の整理になっています。
休憩明けには、講義ノートを準備しているうちに別の計算を思いつき、研究ノートの方が進んでしまったという裏話が語られます。講義準備は既存の知識を整理する作業であると同時に、つながりを見直すことで新しい問題が立ち上がる時間でもあります。
QAOA、Pontryagin原理、Schrodinger bridgeを同じ流れで並べること自体が、講義を超えて研究の整理になっています。どのハミルトニアンをどの時間だけ作用させるか、ある分布から別の分布へどう移すか、有限時間で理想経路から外れないようにどう補正するかという問いが繰り返し現れます。
この雑談は、量子アニーリングの教科書や今後の研究方向を作るための足場としても位置づけられます。単発の講義で終わらせるのではなく、ここで整理した道具を次の論文や講義、研究テーマへ持っていくという姿勢が見えます。
6. 有限温度の量子アニーリング
次に、量子系を有限温度で扱います。古典系のGibbs分布は
です。量子系では密度行列
を使います。
横磁場を含む
では、
とします。各Trotterスライスの間に完全性
を挿入すると、トレースは虚時間方向に周期境界条件を持つ古典スピン和になります。
横磁場1スピン分の行列要素は
です。これを隣り合うTrotterスライスの古典スピン
と書くと、
です。したがって分配関数は、定数因子を除いて
となります。これがSQAの基本式です。
コラム 2日目 0:31:34-0:35:05 / 4:50:06-4:56:58
SQAと量子モンテカルロ、呼び名で見える歴史
講義序盤では、最近はSimulated Quantum Annealing、SQAと呼ぶ人が多いが、以前からこの分野にいる人は量子モンテカルロ法と呼ぶことが多い、という軽い世代談がありました。OpenJijなどの文脈から入った人にはSQAという名前のほうが自然で、古くから統計物理で扱っていた人には量子モンテカルロのほうが馴染み深い、という違いです。
鈴木-トロッター分解の物理的意味は、量子系を虚時間方向に1次元増やした古典系として読むことにあります。講義では、数学的な分解公式としてだけでなく、量子スピン系を古典確率モデルとして扱えるようにした点が強調されました。
講義序盤では、最近はSimulated Quantum Annealing、SQAと呼ぶ人が多いが、以前からこの分野にいる人は量子モンテカルロ法と呼ぶことが多い、という軽い世代談がありました。OpenJijなどの文脈から入った人にはSQAという名前のほうが自然で、古くから統計物理で扱っていた人には量子モンテカルロのほうが馴染み深い、という違いです。
鈴木-トロッター分解の物理的意味は、量子系を虚時間方向に1次元増やした古典系として読むことにあります。講義では、数学的な分解公式としてだけでなく、量子スピン系を古典確率モデルとして扱えるようにした点が強調されました。
SQAと量子モンテカルロの呼び名の違いは、分野への入り口の違いをよく表しています。最近の最適化やOpenJijの文脈から入った人にはSimulated Quantum Annealing、SQAという名前が自然ですが、統計物理や量子スピン系の数値計算から入った人には量子モンテカルロ法という呼び名の方が馴染み深い、という話です。
講義では、言葉の違いが単なる好みではなく、どの問題意識からその手法を見ているかを反映していると説明されます。最適化アルゴリズムとして見るならSQA、量子系の有限温度分配関数をサンプリングする方法として見るなら量子モンテカルロです。どちらも鈴木-Trotter分解を使って、横磁場を持つ量子系を虚時間方向を持つ古典系へ写す点でつながっています。
この変換によって、量子スピン系の分配関数は、Trotter方向に並んだ多数の古典スピンの相互作用として読めるようになります。横磁場が弱いとTrotter方向のスピンは揃いやすく、強いと揺らぎが増えます。この古典対応があるから、量子アニーリングを古典計算機で模擬する道が開ける、という位置づけです。
コラム 2日目 5:00:00-5:02:08 / 5:02:08-5:10:58
stoquastic/non-stoquasticは、単なる専門用語ではない
終盤では、行列要素が確率分布として扱えるかどうかが、量子系を古典的にシミュレーションできるかに関わると説明されました。負の成分や虚数成分が出ると、素直な確率分布へ翻訳できなくなります。
stoquasticは、量子系を確率的に扱えるという意味を持つ語として紹介され、non-stoquasticはその対応が難しい場合を指します。日本語にしづらい語でもあり、定義の厳密化にも余地がある、と補足されました。
同時に、横磁場だけだから量子アニーリングはつまらない、という見方には距離が置かれています。基底状態以外のダイナミクスやギャップ、実デバイスで試せる相互作用を考えると、まだ研究すべき問題は多い、という強いメッセージです。
終盤では、行列要素が確率分布として扱えるかどうかが、量子系を古典的にシミュレーションできるかに関わると説明されました。負の成分や虚数成分が出ると、素直な確率分布へ翻訳できなくなります。
stoquasticは、量子系を確率的に扱えるという意味を持つ語として紹介され、non-stoquasticはその対応が難しい場合を指します。日本語にしづらい語でもあり、定義の厳密化にも余地がある、と補足されました。
同時に、横磁場だけだから量子アニーリングはつまらない、という見方には距離が置かれています。基底状態以外のダイナミクスやギャップ、実デバイスで試せる相互作用を考えると、まだ研究すべき問題は多い、という強いメッセージです。
終盤では、stoquasticとnon-stoquasticという言葉が導入されます。量子系を古典確率分布に写すとき、行列要素が非負の重みとして扱えれば、モンテカルロ法でサンプリングする道が開けます。これが確率的に扱える、つまりstoquasticであるという感覚です。
一方、行列要素に負の成分や虚数成分が現れると、確率分布として素直に解釈できません。これは符号問題として現れ、古典シミュレーションを難しくします。non-stoquastic ハミルトニアンが量子計算や量子アニーリングで重要視されるのは、単なる専門用語ではなく、古典計算に翻訳できるかどうかの境目に関わるからです。
ただし講義では、横磁場だけの量子アニーリングを「古典的にシミュレートできるからつまらない」と切り捨てる見方には慎重です。基底状態だけでなく、有限時間ダイナミクス、ギャップ、実デバイス上で試せる相互作用、そしてどの対応が壊れるかを調べること自体に、まだ多くの研究余地があります。
7. p-spin模型の平均場解析
p-spin ferromagnetic modelは、量子アニーリングの相転移やギャップを解析する標準模型です。目的ハミルトニアンは
です。平均磁化
を使うと、エネルギーは
Suzuki-Trotter表示では、各スライス
を導入します。そのために
を挿入し、デルタ関数を補助変数
と表します。すると分配関数は概略
となります。
静的近似では
と置きます。このとき、1スピンの有効2準位問題は
で表され、固有値は
です。したがって
が現れます。最終的に
の形になります。
です。ここから鞍点方程式
と
を得ます。
極限の読み方は明快です。
で温度を0に近づけ、横磁場
として温度
7.1 non-stoquastic系としての反強磁性XX模型
横磁場だけのp-spin模型では、
Seki--Nishimoriの発想は、ここで横磁場のかけ方そのものを変えることでした。標準の横磁場
に加えて、横方向の全磁化に反強磁性的な相互作用を入れます。
係数が正なので、
全体のハミルトニアンは
と書けます。
なぜこれがnon-stoquasticなのかも、ここで見ておきましょう。
には、二つのスピンを同時に反転する非対角要素が正の係数で入ります。非対角要素の符号をすべて非正にそろえられないため、標準的な量子モンテカルロでは符号問題が顔を出します。この「古典確率として扱いにくい」という性質が non-stoquastic です。
平均場解析では、縦磁化だけでなく横磁化も秩序変数にします。
各Trotterスライス
この二つを入れると、全結合の相互作用は集団変数
と置きます。一スピンが感じる有効な縦場と横場を
と定義すると、擬自由エネルギーは
と書けます。
鞍点条件は
です。通常の横磁場だけなら
零温極限では
Seki--Nishimoriの解析では、この
ここで大切なのは、non-stoquastic項が「入れれば常に速くなる魔法の項」ではないことです。役割は、自由エネルギー地形を変える設計変数です。量子常磁性相の谷、強磁性相の谷、横磁化を罰する項の強さ。この三者の釣り合いで、一次転移が残る場合もあれば、二次転移へ変わる場合もあります。だからこそ、ハミルトニアンを作ったら、最後はこの講義で何度もやっているように、秩序変数を置き、補助場でほどき、鞍点方程式を見て、相図を読む必要があります。
8. QAOAをp-spin模型で見る
最後に、QAOAの測定分布をp-spin模型の解析へつなげます。QAOA状態を測定して古典配置
です。統計力学的な解析では、これを用いて
のような量を考えます。ここでは
深さ
です。
と書けます。
p-spin模型では、磁化を入れることで
の形にします。また横磁場のミキサーは
と分解できます。さらに
なので、1スピンあたりの行列
を使って、全体は1スピンのトレースの
のような形です。ここで
が含まれます。
この式は長く見えますが、講義で強調したい構造は単純です。QAOAの確率は、前向きの量子経路と後ろ向きの複素共役経路を合わせたものとして書けます。p-spin模型では平均磁化を入れることで、その経路積分を鞍点問題へ落とせます。こうして、量子回路アルゴリズムを統計力学の相転移問題として解析する道が開きます。
コラム 2日目 5:11:45-5:12:18 / 5:12:18-5:13:43
Fokker-Planckへ向けて、3日目へ渡す
予定時刻を少し越えて、2日目は量子モンテカルロ法とstoquastic/non-stoquasticの話で区切られました。翌日はFokker-Planck方程式、虚時間Schrodinger方程式、拡散モデルとの関係へ進むと予告されます。
締めの雑談では、準備しながら自分でも新しく分かったことがあり、研究ネタが二つほど思いついた、と語られました。講義を作ることが、そのまま研究を進めることにもなる、という2日目らしい終わり方です。
予定時刻を少し越えて、2日目は量子モンテカルロ法とstoquastic/non-stoquasticの話で区切られました。翌日はFokker-Planck方程式、虚時間Schrodinger方程式、拡散モデルとの関係へ進むと予告されます。
締めの雑談では、準備しながら自分でも新しく分かったことがあり、研究ネタが二つほど思いついた、と語られました。講義を作ることが、そのまま研究を進めることにもなる、という2日目らしい終わり方です。
2日目の最後は、予定時刻を少し越えながら、量子モンテカルロ法とstoquastic/non-stoquasticの話で区切られます。翌日はFokker-Planck方程式、虚時間Schrodinger方程式、拡散モデルとの対応へ進むと予告され、統計力学から確率過程への橋がかけられます。
締めでは、講義を準備しながら自分でも新しく分かったことがあり、研究ネタが二つほど出てきたと語られます。講義をすることが単に知識を伝えるだけでなく、自分の研究を整理し、新しい方向を見つける行為にもなっていることがよく分かる場面です。
コメントへの反応もあり、途中参加の視聴者からの感想や、場の量子論に似ているという指摘に応答しながら、スピン系でも考え方の核は似ていると補足されます。2日目は、QAOA、SQA、p-spin模型を通して、翌日の拡散モデルへ自然につながる形で閉じられます。
参考文献
- Yuya Seki, Hidetoshi Nishimori, “Quantum annealing with antiferromagnetic fluctuations,” Physical Review E 85, 051112 (2012). 出典
- Hidetoshi Nishimori, Kabuki Takada, “Exponential Enhancement of the Efficiency of Quantum Annealing by Non-Stoquastic Hamiltonians,” Frontiers in ICT 4 (2017). 出典












